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無数の鴉が飛び立った。
これは幻影なのか。
男の姿も黒いコートを纏い、
漆黒の闇に包まれている。
白い息を吐いて、
行き着く先は砂漠の地の果て。
男は一人ただその歩みを進めて、
倒れ込んだ。
通りすがりの駱駝を引いた男が声をかけてきた。
彼の言葉が脳裏に響いて瞼を開ける。
するとまた無数の鴉が男の周りに蔓延っていた。
「鴉がいる」と、か細い声で駱駝を連れている男に話すと彼はこう言った。
「ここに鴉は一匹も飛んでおらん」
君が見ているのは幻なんだと言った。
男は誰の幻影を見たのだろうか。
無数の鴉が自分を睥睨している。
誰かがじっと見つめている。
「知っているか? 死んだ鴉はアロマの香りがするんだと」
男はそう呟いて立ち上がる。
駱駝の背に乗せられ、隣町まで連れていってくれた。
男は彼に助けられて一命を取り留めた。
真夏の夜の砂漠は寒いというのに、また命拾いをした。
「彼女が待っているんだ。どこかで……」
黒い闇の中に一筋の希望の光が差し込んだ。
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