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昔この辺は米作りで栄えたらしい。村一番の金持ちが徐々に権力を持ち始めた。そんな中村の中に目の見えない女がいた。当時は働かざるもの食うべからず。今と比べると差別もだいぶひどかっただろう。役立たずとして虐げられていたそうだ。
目が見えないのだから当然何もできない、何をやっても失敗ばかりでのろまだグズだと罵られ。なんとかその権力者の家に奉公に行ったのは良いものの。当然だが炊事ができるわけではない。
何かを失敗するたびに、次はうまくやるからチャンスをくれと言っていたそうだ。目が見えなくても赤子をあやすぐらいはできるだろうと、当主の若君を任された。
「生まれつき目が見えないのなら、赤子というものがどんなものかもわからなかっただろう。だがそれさえできないとなると村から追い出されてしまう。そのことからメメはいつも必死だったらしい」
それはそうだ。目が見えない状態で追い出されたら、それは死を意味する。今では考えられないけど当時はそれが当たり前のことだった。
「ある時、いくらあやしても泣き止まないことがあったようだ。メメは泣き止ませるため、甘いものを赤子に与えた」
「なにあげたの?」
「飴だ。昔の飴は主に水飴だったが、固形の飴が出始めた頃だった」
子供は甘いものをあげれば泣き止むと思ったんだろう、と。じいちゃんは山を見る。
「だが、掴んだのは飴ではなかった。石を、掴んでしまったんだ」
「!」
「珍しい固形の飴を、腹を空かせたメメがたびたびこっそり舐めていた。それに気づいた他の使用人が、石にすり替えていたのだ」
「そんな……」
腹減らしてたなら、ろくに食べ物もらってなかったってことじゃないか。でも、盗みは盗み。嫌がらせのつもりだったのか。じゃあ、まさか。
「赤子は喉に石を詰まらせて死んでしまった。そのことに怒り狂った当主はメメをその場で斬り殺してしまったそうだ」
それはなんとも悲しい話だ。メメが悪いかというとそういうわけでもないが、赤子が死んで仕方ないはずもない。不運が重なったとしか言いようがない。
「それ以来メメは彷徨っていると言われている。『今一度、今一度』と言いながら」
何故当主が怒り狂ったのか。なんで殺されたのかもわかっていないんだろうな。そう考えたとき俺は昔のことをふと思い出した。
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