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それに事の発端は泣いている赤ん坊をあやすためだ。泣き叫んでいたあの男に反応したんだ。
死んだ女は説得や成仏をさせるのに失敗した。そう簡単に人の心が救えるわけじゃないってことか。その時違和感が湧き起こる。
――じゃあなんで俺は生きてるんだ?
俺は子供の頃確かに口の中に飴を突っ込まれて。うまいと言わなかったか? この女も間違いなくありがとうとかおいしいとか言ったはずなのに、無限に詰め込まれて死んでしまった。どういうことだ。
それに俺の口の中に突っ込まれたのは石じゃない。確かに飴だったと思う。
ちりん、ちりん。
また鈴の音が聞こえる。メメの方向じゃない。あの鈴はメメが持ってるものじゃないんだ。俺は鈴の音を追った。
たどり着いたのは少し開けた場所だった。雨風にさらされて、もはや原型を留めていないけど。これは、社?
薄暗いからよく見えなかったけど、何度か瞬きをしたら。その社の横に女の子が一人立っているのが見えた。一体いつの時代だろう、着物を着ている。派手な着物じゃなく普段遣いの着物という感じだ。鈴は彼女が持っていた。
彼女は前髪が長くて表情はわからないけど。でも風が吹いて前髪がめくれ上がった。
目が、ない。
記憶がフラッシュバックする。あの時、十年前。口の中に甘いものを突っ込まれてうまいと言った俺。その時うっすらと目を開いたとき……目の前にいたのは。メメじゃない、この子だ。あの時、俺を助けてくれたのはこの子だったのか。
「優しくすれば、あれが消えるとでも思ったか」
女の子の見た目なのに聞こえてきたのは低い男の声だ。怒っているような、呆れたような。酷く冷めた声。
優しくすれば満足して成仏する? 長年虐げられていたのに? そんなわけないだろ。恨み辛みが積み重なってる。
「違う。石を口に突っ込まれて、満足してしまったら。メメはずっと、勘違いしたまま何度も石を口に入れてくる。自分の行動は間違っていなかったと、ちゃんと赤ちゃんをあやしてると思って」
今一度。それはチャンスをくださいという意味じゃない。自分はこんなに立派に務めを果たしている、やってみせるからよく見ておけということだ。虐げてきた者たちへの反論だ。
そうか、メメを肯定してはけないんだ。お前のやっている事は間違っていると。それは石だと教えてあげなきゃいけなかった。
「もう遅い」
「え」
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