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「調子に乗ったアレはもう聞かない」
さっきの男の言葉が脳裏をかすめる。正しく伝承を理解していたのはじいちゃんを含めここに残っている人たちだけ。都心に出てしまった人は、神様とメメの話がごちゃまぜになったんだ。
だから冷やかしや、あの女のみたいになんとかしようという奴らが来てしまった。
なんてこった、最悪の方向にもう動き出してしまっている。メメは、悪霊になってしまった。
「こうならないようにしてきたのに、もう遅い。お前たちのせいだ」
ちりん、ちりん。
「俺はもう知らん、なんとかしろ愚か者共が」
鈴は、メメを誘導するためのものだったんだ。人々から遠ざけて、メメを勘違いさせないためにあの子は……いや、あの御方はずっと。仕方なく人間を助けていた。俺を助けたのもメメから遠ざけたかったから。
昔話がごっちゃになったり、尾ひれがついたりしてよくわからない神様の存在がでっち上げられてしまった。訪れる人が増えて収拾がつかなくなった。
お前たちのせいだ。
確かにその通りだ。
馬鹿な人間が、悪い。
「楓、どこ行ってたんだ。また迷子になったかと思ったぞ」
「じいちゃん」
俺の雰囲気にじいちゃんは一瞬眉間に皺を寄せた。
「メメを悪霊にしちまった」
「!」
俺は今まであったことをじいちゃんに全て話した。昔あったことも全部。じいちゃんは悲痛な面持ちだったが、ポツリと一言。
「今日お前は山に行ってない。いいな」
「……わかった」
奇妙な死体が見つかるのは時間の問題だ。かかわれば俺が重要参考人にされてしまう。見て見ぬふりをしろと言われたのだ。俺にはやらなければいけないことがあるから。
山から男女の奇妙な遺体が見つかったとニュースが流れた。オカルトの話から口論となり「私が絶対に助ける」と言い残して行方不明になった女とその取り巻き。家族が警察に通報したようだ。
遺体は明らかに異様な状態だった。口にはいっぱいの石が詰め込まれていた。食道はもちろん胃までパンパンに。司法解剖の結果死因は窒息死、という内容を俺はニュースを見て知った。
どうしてメメが山にいたのか。これは本当に憶測だが、山神様は目がなかった。メメ、という名前。目目、と言葉が引っかかって山神様がメメを山に閉じ込めているのかもしれない。
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