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その夏の暮れのこと。
いつものようにみなで湾に集っていると、雉珠が唐桃を呼びかけた。
「なぁ」
「うん?」
狛犬と参猿は浅瀬で足を浸してはしゃいでいる。
「ああ、その、なんていうか……」
「なんだよ」
「ええと……」
雉珠はしばらく口ごもっていが、やがてきちんとこちらを向いた。
「唐桃、いいか。もし……もしお前が、この先、絶望にかられることがあったとしてもだ」
「なに、絶望?」
「そうだ。そうして全て投げ出してしまいたくなっても、絶対に捨てるな」
「なにを……」
「光を捨てるな。諦めなければ、どこかにきっと光はある。絶対にそれを探せ。探し続けるんだ。いいな」
「ええ、うん……?」
唐桃はわけが分からず頭を掻いた。語らいの場でこんなに真剣な目をする雉珠は初めてだった。
「何かあったのか?」
問うと雉珠は少しだけ上瞼を広げたが、
「いや……これからも狛犬を頼む」
それだけを言うと、あとはいつものように微笑んだ。
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