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「やい、咎人の子! おめえのかかあはひでえ悪人だったんだってな! 出てけよ、このうすのろ!」
「そうだ出ていけ、きったねえ!」
生みの親の噂はどこから流れたのか、唐桃は物心をついた時には、村の子供たちから石や砂を投げつけられていた。
「──おとう、おかあ、俺は咎人の子なのか?毎日毎日みんなに馬鹿にされて、もう嫌だ。こんななら、もう死んだほうがマシだ……」
ある日こらえ切れずに泣き出した唐桃を、婆様が優しく抱き締めてこう言った。
「いいですか、唐桃。確かにお前の母は素性のわからぬ罪人でありました。ですがお前を産み落とした時、あの人は震える指で杏子の実を指差したのです。おそらくは自分の死を悟り、あの実をすり潰してお前に与えて欲しい、そう言いたかったのでしょう。あの人がどんな咎を負っていたのかわかりません。けれど、死の間際にもお前を愛する思いで、心をいっぱいにしていたのです。立派な母親でした。お前は、そんな人の子なのですよ。誰に恥じることはない、さあ立ち上がって顔をお拭き。お前は、この爺と婆の大切な子なのだから」
「……おかあ!」
唐桃は婆様の温かい胸の中でわんわんと泣いた。
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