鬼望島伝説

3/12

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
季節は巡り、やがて十三の歳を迎えた唐桃の側には三人の友がいた。 そのうちの二人は姉妹で、姉を雉珠(きじゅ)、妹を狛犬(こま)といった。姉妹の父は村長と役人の間を取次ぐ役目を負っており、そのためかいつも役人の顔色を伺い、怯えて暮らしているように見えた。 姉の雉珠は唐桃のひとつ年上で、村の評判の美人だったが、雉珠はあまり村人と関わろうとはしなかった。唐桃も以前は、雉珠を遠巻きに見ていたものだった。 けれど一昨年の冬のことだ。 その日唐桃は、村の男児らに囲まれ、棒で酷く叩かれていた。袖のない麻の衣服はそれだけでも寒さがしみる。そのうえ打たれてはたまらない。 あまりのつらさに涙が滲んだとき、雉の羽根と同じ茶褐色の髪を靡かせた女が、吹雪の中を鬼神のように駆けてきた。それが雉珠だった。 「いいかげんにしろお前ら! お前らがいくらそいつを殴っても、どうせお前らは何も変わらない!」 雉珠の振り下ろした棒の先は一番体の大きい男児の手を打ち、その手に持っていた棒を弾き飛ばした。 「いってえ! なんだてめえ!」 側にいた男児らが一斉に飛びかかる。雉珠はそれを片っ端から弾いていった。 「徒党を組んでみっともない! お前らはいつもそうだ! いつもいつも自分より弱いものを見つけて、そいつをいじめて、さぞ満足なことだろうな!! だけど見てみろ、いくらそいつを殴っても、お前らの手も足もひとつも変わりゃしない。自分の不幸を誰かに押しつけても、自分の足で立たなきゃ、お前らはずっと不幸のままだ!」 「う……うるせえ! お前なんかにわかるかよ、女の、お前なんかに!」 泣きベソをかきながら去って行く男児らはみな、偽りの戸籍に女児と記された子供たちだった。 みな成人を迎えても、家も継げなければ、嫁も取れない。どこにも行き場のない未来が横たわっている。 やり場のない怒りを他人で晴らそうとする虚しさを、しかし雉珠は断固として許さなかった。 その毅然とした姿は唐桃の心に火を灯した。 その日から雉珠は唐桃の無二の友になり、そして目標になった。 話してみれば気さくな雉珠は、役人と村長との滑稽なやり取りや、色々な伝承を唐桃に語って聞かせた。 去年の暮れに、流行病で爺様と婆様がこの世を去った時には、雉珠はただ唐桃に寄り添い、いつまでも側にいてくれた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加