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「鬼望島? ああ、子供の頃に聞いたな。なんでも不老長寿になれるって島だろ? 宝物がわんさかあって、食べ物もいっぱいあって……」
唐桃がのんびり答えると、参猿が口を開けた。
「食べ物? じゃあ草餅もある? 魚は猪肉は?果物もか!?」
「さ、さぁ……」
「あるんじゃないかな?」
興奮する参猿に雉珠がくすくすと笑う。
「そうか、そんなら行こうぜ、その島にみんなでよぅ!」
「なんだよ参猿、お前は食い物が目的か?」
「食いもんだけじゃねえよ唐桃。オイラこんな村、もうたくさんなんだ。山に帰りゃおとうに殴られ、村に行っても殴られる。おかあは、どこにいるかも分かんねえ。こんなとこ、ひとっつも未練なんかねえよ」
思いがけない参猿の言葉に場がしん、と静まった。
「その島にもし行けたらさぁ、これも治るかなぁ?」
参猿がボロの着物をめくり上げると、両脚の裏に腫れ上がった紫の痣が幾筋も浮かんでいた。
「……治るさ、きっと」
雉珠がうつむいて唇をかんだ。
「ああ、そうだな。行こう、いつかみんなで。誰にも縛られない、空腹も痛みもない島に」
「痛みもないの? そりゃあいい! でもどうやって行く? オイラ舟なんかねえし、方角もわかんねえ。雉珠は知ってる?」
「えっ、いや……」
雉珠が助けを求めるようにこちらを向くので、唐桃は知らないぞとかぶりを振った。
「なぁんだよぅ、誰もわからねぇのかよぅ!」
参猿がつまらなそうに唇をすぼめる。
「まあ、行き方は分からないけど……みんなで探せば、きっと見つかるよ」
雉珠が鷹揚な言い方で答えると、参猿の目はパッと煌めいた。
「そうかな!? うん、そうだな! ああ、でもオイラ、みんなといられるのはここだけだからなぁ。島の手がかりを見つけた時も、探す時も、ついでになんか、食いもんとか、困った時はみんな、ここに集合だ!」
「それはいいな」
「ああ、そうしようそうしよう」
唐桃と雉珠は、幼い弟をあやすように頷きあった。
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