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村一番の美人の雉珠が隣国の豪族の元に輿入れをすると伝え聞いたのは、それから三日後のことだった。
「雉珠が……なんだって?」
にわかには信じられず、唐桃は何度も隣家のおかみさんに聞き直した。だがおかみさんも、そのまた隣のおかみさんもみな同じことをいう。
唐桃の気持ちはだんだん重くなってきた。三人の中で一番歳が近く、胸の内を何でも言い合える友。それがいなくなってしまう。
かつて唐桃のために村の子らと闘ってくれた雉珠。
『自分の不幸を誰かに押しつけても、自分の足で立たなきゃ、ずっと不幸のままだ』
あの日の声が心に住み着いている。
雉珠のように強くなりたい、そう生きねばと決意した。その雉珠がいなくなる。遠いところへ行ってしまうのだ。
なぜ自らの口で結婚のことを打ち明けてくれなかったのかも気になった。
思い当たることといえば、湾で聞いたあの謎めいた言葉くらいだった。とすれば、あれは結婚のことを指していたのだろうか?
否、それにしては奇妙だと思った。
豪族の元に嫁げば貧困に喘ぐ必要はない。未来は今よりも遥かに明るい。それなのになぜ『絶望にかられても光を捨てるな』などと言ったのか。
「ウーン……」
考えても分からない。ますます気持ちは暗くなる。こういう時は海を見ようと、唐桃は雉珠と狛犬が消えた湾に寝転んでぼんやり雲を眺めた。
何日も何日もそうやって過ごした。
するとある時、参猿がビクビクと怯えた様子で唐桃に近づいてきた。雉珠の輿入れ当日の夕方のことだった。
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