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豪族の輿入れは夜中に行われる。
国境までは嫁側の親族も歩いて付き従うのがこの地方の慣わしだ。松明の明かりの中には狛犬の顔もあった。
花嫁の一行が粗末な祠を通り過ぎようとしたとき、うっそうとした木々の中から一斉に矢が放たれた。
一行はたちまち混乱に陥った。遅れて剣を抜く御者と守りの兵は、続いて投じられた小刃の餌食となって次々に倒れていく。
やがて姿を現した山賊たちは御者が落とした葛籠に群がった。
ひとりの男が輿に近づき、中から雉珠を引き出して肩に担ぎ出した。
そのまま雉珠を森に連れ去ろうとする男の足に唐桃が思い切りしがみついた。不意を突かれてぐらついた男の腕に参猿が噛みつく。
「ギャッ!」
と男が叫んだところで棒を打ちつけた。膝を折った男が雉珠を取り落とすと、唐桃はすかさず雉珠の手を取った。が、
「バカ、余計なことをするな!」
雉珠はキッと唐桃を睨み上げた。
(ああ……)
やはり知っているようだ。何もかも承知の上で、雉珠はこの計画に与している。
「離せ唐桃っ」
「嫌だ!」
この手を離せば、雉珠は山賊と共に姿を消し、殺されてどこぞに埋められるのだ。たとえそれが雉珠自身の望む未来だとしても、到底容認できるはずがなかった。
無理矢理にその手を引いて森の奥に向かい出したとき、
「きじゅ、き、きじゅ……」
狛犬が両手をさまよわせ、おぼつかない足取りで雉珠の後を追い始めた。
「参猿、お前は狛犬を!」
「う、うん!」
参猿は足が速い。きっと狛犬に追いついてくれるだろう。
「こん餓鬼どもがァ!」
唐桃に倒された男が小刀を放った。その刃が雉珠の背中に突き刺さった。
がくりと身を落とした雉珠。その脇を抱え、唐桃は闇色に染まる夜の森を無我夢中にひた走った。
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