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「君は、ただの根無し草だと思っていた。だから城に招いたのに」 「俺は天涯孤独だよ」 「嘘。親父を殺したのも君だ」  アロイスはまっすぐリドを見つめた。 「惚れた弱みで考えないようにしていたけれど、君がマ=モン城に来てしばらくしてから親父の具合が悪くなったんだ」 「偶然じゃないか」 「ギド医師(せんせい)も気付かなかったものね。まあ、あのひとは昔から仕えているだけが取り柄の、化石みたいなものだから訳にはたたない。毒を盛られているなんて、思いつきもしないさ。でも僕は、君が毒を使ったと信じてる」 「……」 「親父は兄貴が何かしたと思っていたみたいだけど、その意味でも君は幸運だね。親父は君のことを、僕が気まぐれに連れてきた道化だからと、警戒すらしていなかった。それに君も、親父に取り入ってお呼びがかかるようにしていたからね」  アロイスが葡萄酒のグラスを掲げてランプに透かすと、細かな澱が舞ってゆっくりと沈んだ。 「……天涯孤独だなんて言ってるけど、サバル族の命を受けて僕に近づいたんじゃないの?レビオール家を内部から崩すために。そして、親父を殺すことに成功した。見事だよ。誰も君を疑わなかった。あの注意深い兄貴ですら、親父はただの病気だと思っていた……まあ、兄貴は君を怪しんだとしても黙っていただろうね。親父の死を誰よりも願っていたのは兄貴なんだから」  飲まない決断をしたのか、アロイスはグラスを置いた。 「親父が死んで休戦になれば、君は城を去ったのかな。そうしたら、憐れなフラビオは死なずに済んだかもね。でも、兄貴は戦いを止めなかった。戦況は膠着していたが攻勢の糸口を掴みかけていて、その流れを止めるほど愚かじゃない。だから、君は兄貴に近づいた。極めて自然にね。何故だろうな、あのジュディットさえ、君には心を許していた。どんな手品を使ったか知らないけど、君に惹かれてしまうんだよね」  机に置かれたままのグラスを取り、リドは中身を半分ほど飲んだ。アロイスは探るような眼差しをしている。 「ガルシアとミオット一座のことは知っていたの?……その様子だと知らなかったようだね。じゃあ、彼らの動きは想定外だったのか。でも、良かったんじゃない?いくら信用されているといっても、兄貴は親父と違って健康体だから、毒を盛って病気に見せかけるのも限度があるからね」  アロイスはリドの手からグラスを引ったくって、残りを飲み干した。 「僕は親父や兄貴とは違うよ。もう、戦いは終わりだ」
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