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「ここから好きなカードを三枚抜いてください。どのカードを選ぶかは考えず、知りたいことを心の中で強く念じながら……」  差し出されたカードの山から、ジュディットは三枚抜いて卓の上に並べた。促されるまま、伏せたカードを次々とひっくり返す。羊皮紙の古文書に添えられた図版のように、古拙だが色鮮やかな絵柄が目を引く。 「月、星……が描かれてるのはわかったわ。何でしょうね、月は野良犬に威嚇されているみたい。あまり良い意味のカードではないのかしら」 「そうですね。左に置いたカードは、お嬢様の現在の状態を表します……月は、不安や葛藤を意味するカードです」  ジュディットは道化の男に冷ややかな眼差しを向けた。 「そうなの。わたしは不満はあるけど、不安を感じているつもりはないわ」 「解釈は色々ありますからね」  澄ました顔でリドは返した。 「しかし、先ほどお嬢様自身がおっしゃったように、今後の身の振り方については悩まれておられるのでしょう」 「まあそうね。さっさと出て行きたいから、早く決めて欲しいくらいには思っているわ……この忌々しい痣が無ければ、家出してピアノ教師くらいにはなれるのに。これのせいで、お兄様に道を示して貰わないといけないんだわ」 「ご謙遜を。お嬢様なら演奏で食っていけるのでは」 「無理よ。そこまで上手くはないわ」  照れたように否定してから、ジュディットはカードに視線を戻した。 「続けて。真ん中は星のカードよね」 「はい。中心に置いたカードはお嬢様が現状にどのように挑むべきかを示しています。星は希望、ひらめきを象徴するカードです」 「良いカードなのね。自分の直感を信じて行動しろということかしら」 「お嬢様は優れた占い師にもなれそうですね」 「からかわないでよ……でも、いいかもしれないわ。占い師なら、目だけ出した分厚いヴェールをかぶっていても、怪しまれないもの」  最後のカードは、薄衣を腰のあたりに絡ませただけの女と、その周囲に動物の首が配置されている構図だった。 「右に置いたカードは、到達点を示しています」 「わかりにくい絵柄ね。神々しい感じはするけれど」 「全てのカードのうち最後に位置するものです」 「最後というところに、意味がありそうね」 「はい。成就や完成を象徴するカードです」 「そうなの……」  ジュディットはしばらく考えこんでいた。 「わたしの願いは叶うと考えていいわね」 「お嬢様がそのように解釈なさるのなら」 「持って回った言い方ね。使用人たちには、はっきり伝えているのでしょう?皆、貴方の占いの結果を比べ合ってるわよ」  リドはカードを重ねて箱に入れ、懐にしまった。
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