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五
十八歳になる頃には、アロイスはすっかり不良貴族になっていて、週に何度もモンリュの酒場でくだを巻いていた。身分は隠しているものの金離れが良いので、はじめのうちは店の女たちにちやほやされていたが、そのうち悪い輩に目をつけられ、トランプの賭け事に引き込まれてしまった。後でわかったことだが、相手の男達は金の貸し借りまでしていると見せかけて裏で繋がっており、集団でアロイスの資金を巻き上げていた。レビオール家の次男坊であることも、どうやらバレていたらしい。
さっさと手を引けば良いものを、エレトの形見であるエメラルドの首飾りを、こっそり持ち出して借金のかたに預けていたから、セヴランがマ=モン城に戻ってくるまでにどうにか取り返さなくてはいけなかった。セヴランはヨルベトから帰還するたびに、母親が使っていた部屋に籠もって、服や装飾品を眺めては想い出に浸るから、エレト愛用の首飾りが無ければ大騒ぎになってしまう。
その日もアロイスは、なけなしの小銭をかき集めて勝負に出た。数試合は勝ちが続いたので、ツキが回ってきたのだと強気に賭け金を増やしたが、その途端に負け始めた。勿論、ならず者たちがアロイスからより多く巻き上げるために仕組んでいるのだが、そんなことを彼が知る由もない。あっという間に巻き上げられてしまった。
「さぁて、今夜はこれまでかなぁ?」
(後で思い返すと)ならず者たちのリーダー格であるヤニクの挑発的な台詞で、頭に血が上ったアロイスは、これだけは手をつけまいと隠していた懐のものに手を伸ばした。
「これでっ……」
テーブルに飛び散った金貨に、ヤニクは口笛を吹き、ほかの男達は下卑た笑い声を上げた。
「あと三戦はできるんじゃないかあ?」
「ここから勝てばいいんだよぉ、かわい子ちゃん」
屈辱的な言葉にアロイスは奥歯を噛んだ。勝てる気がしない。それなのに、逃げる勇気も無い。震える手でカードを抜こうとしたところで、肩を叩かれた。
「どけよ、俺が代わってやる」
声を掛けてきた男は、知人ではなかった。浅黒い肌を豊かな巻き毛が縁取り、アロイスの頭半分ほども背が高い。男は呆気に取られたアロイスを押しのけ、カードの束を手に取った。
「何だお前?」
「こいつの知り合い」
男はアロイスの腰を引き寄せた。
「ええ?ホントかよお」
視線が合い、アロイスは真っ赤になりながら頷いた。
「おいおい、マジか?」
「ほ、本当だよ」
混乱しながらもこの場をどうにか乗り切りたくて、アロイスは必死だった。
「てめえ、さっき店に入ってきたばかりじゃねえか」
「ここ半月ほど毎日通ってるよ」
それは事実だった。しばらく前からこの男が、店の片隅でひとり酒をしているのを何度も見かけていた。旅の余所者だろうと大して気にかけていなかったのだが、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかった。
「どうした?余所者と勝負するのは怖いのか」
煽られてヤニクは顔を真っ赤にした。
「受けて立とうじゃねえか。後悔すんなよ」
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