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「せっかくのお祝い事だから、賑やかにやりましょうよ」 「派手にしないと言ったばかりだぞ」 「身内だけでも楽しみましょうってことよ。アロイス、何か考えはない?」  水を向けられたアロイスは、面倒臭そうに返事をした。 「そうだなあ、都から管弦楽団を呼ぶのはどう?」  無難すぎる意見を、双子の妹は鼻を鳴らして却下した。 「遊び人の癖に詰まらないこと言うわね。もっと面白いものがいいわ」 「婚礼の席なんだから、悪ふざけはできないだろ?」 「あんまり鹿爪らしくやって、退屈した参列者が美人のガルシアに注目しても困るでしょ……そうだわ。曲芸団なんかどう?昔、モンリュに来ていたわよね」  ジュディットは城下町の名を挙げて、兄の傍に控えているフラビオの顔を見上げた。セヴランの従者として子供の頃から仕えているフラビオは、 「帝暦二三七年の十月です」 と、澄ました顔で答えた。 「ええと、なんて名前の曲芸団だったのかしら。わたしも観に行ったけど、覚えてないわ」 「恐れながら、私も記憶にございません。観覧しておりませんので」  フラビオは表情を変えずに詫びた。 「モンリュ中の人たちがテントに押し寄せたのに、さすが堅物ね、。アロイスは覚えてないの?」 「行きつけの酒場の名前すら忘れる僕が覚えてると思う?」 「そうだったわね……ガルシアはどう?わたしたちと一緒に行ったじゃない」  ガルシアは答えず、細かく切った肉を口に運んでいる。 「ねえ、あんたならよく覚えているでしょう」  黙っている女に、ジュディットはしつこく訊ねた。 「どうなのよ?」 「ジュディ、やめなさい」  セヴランが苛々した声を上げた。スプーンが皿に当たって鋭い音をたてる。ジュディットはきっと兄を睨み、口を開きかけた。 「兄上、気にするなよ。いつもの病だから」  アロイスが軽く制すると、ジュディットの矛先は弟に向かった。 「病って何?あんたは酒浸りの癖に」 「はいはい、どうせ僕は穀潰しさ」  葡萄酒の杯を重ねてアロイスはにやにやしている。 「……なあ、旅の曲芸団なんて幾らでもいるだろ?適当に見繕えばいい」 「アロイスったら、やる気がないんだから。いいわよ、 この狭い城で芸を披露してくれるなら、誰でも」  すっかり気をそがれたのか、肉を半分ほど食べただけで皿を押しやったジュディットの前に、菓子を盛った銀の鉢が置かれた。 「どれを召し上がりますか」  音もなく脇に立っていた男が訊ねる。レビオール家の者と使用人たちは、示し合わせたわけでもないのに、荒天のためか黒や灰色の服装をしていたが、この男だけは派手な道化師の格好をしていて、顔を白く塗り丸い付け鼻を光らせている。
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