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 ヘロディスは武勇をもって知られるレビオール家の歴代の当主の中でも、多くの功績を挙げたひとりである。自ら馬を駆り敵陣に切り込み、また戦場での略奪を黙認したので、兵士たちの評判は良かった。  その一方で猟色家であり、遠征先の集落で若い女を献上させる悪癖があった。顔立ちの美醜よりもきめ細かい肌の女を好み、それ故に若い娘が花を散らすことになった。  彼に勲章を与えた皇帝すら、眉をひそめるほどの淫蕩ぶりであったが、これには彼なりの理屈があった。レビオール家は領地を維持するために、長年近親婚を繰り返してきた。そのためか、生まれる赤ん坊には体中に爛れたような痣があり、死産や夭逝が多かった。ヘロディスは痣を遺伝させる血を薄めるために、綺麗な肌の女に子を産ませようとしたのだ。しかし、呪われた血は濃く、二十人近く産ませた子の中で成人したのは三人だけで、あとは幼いうちに病死するか行方不明になっていた。  セヴランと双子は腹違いのきょうだいである。ヘロディスが最初に娶ったのは貴族の娘だったが、辺境の生活に退屈しきって、なかなか子供ができないのを言い訳に逃げ帰ってしまった。次の妻エレトは商人の娘で、身分は低いが教養があり、家政をしっかりと取り仕切ったのでヘロディスも頼りにしていた。彼女が産んだ子がセヴランである。彼も体に痣を持っていたが、母親に似て聡明で、レビオール家の跡取りとして不足はなかった。  信頼する正妻が居ながらもヘロディスの多淫は止まず、エレトはだいぶ苦労したようだ。交戦中の遊牧民サバル族の女を捉えた際に、戯れに孕ませてしまったのは流石に耐えられず、早産で仮死状態の嬰児と女を荒野に遺棄させた。肌の色や肉を生食する文化が、エレトにはどうしても受け入れられなかったのだ。その後、ヘロディスが駐屯先の村長の娘に手をつけて妊娠させたときは、どうやら双子で村の産婆では危険だと説得され、しぶしぶマ=モン城に迎えて出産させた。このとき生まれたのが、アロイスとジュディットである。  双子の母親は、全身痣だらけのジュディットを目にして、あまりの醜さに衝撃を受け死んだと、使用人たちの間でまことしやかに語られているが、実際の死因は産褥熱であった。エレトは生まれてすぐに母を失った双子を憐れみ、顔に大きな痣のあるジュディットには、セヴラン程ではないにせよ愛情を注いだ。  エレトが長生きしていれば、レビオール家の未来はもう少し明るかったかもしれない。モンリュと周辺の村を疫病が襲った年、家族で唯一罹患したエレトは、数日床について呆気なく死んでしまった。
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