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「何故、セヴラン様はお前たちを邪険にするんだ?三人だけのきょうだいだろう」  以前からの疑問を、リドはぶつけてみた。 「きょうだいといっても、腹違いなんだ。エレト……兄貴の母親は親父の正式な妻だけど、僕とジュディの母親は親父が遠征先で手をつけた女でさ、僕は名前すら教えて貰ってない」  喉が渇いたな、とアロイスは呟いた。脇机には相変わらず葡萄酒の瓶がある。リドがグラスに中身を注ぐと、細かな澱がゆらゆらと踊った。 「エレトが親父のご乱行に腹を立てるのは、当然だと思うよ。僕の母がマ=モン城に入れて貰えたのは、双子を妊娠していたせいで腹が異様に膨らんでいるのにガリガリに痩せ細っていて、さすがのエレトも気の毒になったからだって」 「エレトが不憫に思うかどうかで、待遇が違うのか」 「そうだろうね。実は、僕の母親の前にも、親父に孕まされた女がいるんだけど、エレトの許しが得られなくて馬小屋で出産したんだって。赤ん坊は死にかけてたのに、翌日には荷馬車に乗せられて、荒野に棄てられたらしいよ……エレトは僕達のこと、それなりに可愛がってくれたから、運がよかったな」  アロイスは二杯目のグラスを飲み干して、欠伸をした。 「兄貴はそれが嫌だったんだ。エレトを独占したいから。小さい頃から仲は良くなかったよ……エレトが死んだときは大変だったなあ。男の癖に三日三晩泣いて。君が形見の首飾りを取り返してくれて本当によかったよ」 「……お前、恐ろしいことをしたんだな」 「反省してる」  とてもそうとは思えない口ぶりだった。 「兄貴の独占欲は、今はガルシアに向いているんだろうな。ジュディなんて、兄貴がエルウェを殺したなんてことを言い出して……流石にそんなことはしないと信じたいけど」  痛そうに腰をさすりながらアロイスはなんとか起き上がり、リドの背中にもたれた。体にまとわりついていた部屋着がはだけて、禍々しい痣が露わになる。ふたりが初めて出逢った一年半前より、大きくなっているような気がした。 「はじめは下らない妄想だと思ってたんだけどさ……兄貴ならやりかねないなんて、僕まで怖くなってきちゃって。もちろん、自分の手を汚したわけじなゃない。だからこそ、油断できないよね。もしかして、ヨルベトに行く方が死ななくて済むような気がして……」  さらに酒を注ごうとするアロイスの手から、リドはグラスをひったくった。 「もうやめろ、昼間から飲み過ぎだ」 「あはは、心配してくれるの。そういうの嬉しいな」  アロイスは笑って、拳で目を擦った。
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