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司祭が退出すると、代わりに十人ほどの派手な服装をした男達が、広間に入ってきた。一人はかなりの老人で杖をついていたが、あとは鍛え抜かれた肉体を持つ者ばかりだった。中でも、腕がジュディットの腰と同じくらいの太さを持つ男は、左肩に子供を乗せている。子供の方も慣れたもので、平然と背を伸ばしている。
「領主様のご結婚を心からお祝い申し上げます」
老人が杖を床に置くと、背後で控えていた若者がヴァイオリンを渡した。足取りが覚束なかった者が奏でているとはにわかに信じたい、軽妙な旋律が広間を満たす。男達が大小の玉を幾つも宙に放って受け止める。数え切れない程の光る玉は、ひとつも床に落ちることはない。
「あれくらいなら、リドでもできるでしょ」
ジュディットは口元に手をやって囁いた。
「いいから、黙って観てろよ」
実際、曲芸は複雑さを増していった。少年が男の肩の上に立ち、下から別の男が投げる玉を次々と受け止め、空中に放っていく。七つまで増えたところで、玉は全て下に控える男達が回収した。次に少年に向けて投げられたのは、束を宝石で飾った短刀だった。
「怖い」
ジュディットはますます強く手を握った。
「落ち着けよ。あれは玩具のナイフだよ。夜店で売ってる」
「そうなの?」
「飾りは硝子玉なんだから」
アロイスはちらとジュディットの手に視線を向けた。やはりこのエメラルドは本物に違いない。玩具の短刀を飾り付けているものとは輝きが違う。油断ならない奴だ。アロイスは自分のことを棚に上げて、妹の真意を探ろうとしたが、当のジュディットは驚いたり怖がったりしながら、曲芸に夢中になっている。特に、少年の活躍が目覚ましく、短刀五本を次々と放り投げて受け止めたり、逆さになって頭を軸にくるくる回転したり、男達の肩の上を飛び回ったりと、休む間もない。よく見るとずいぶん美しい顔をしている。成長したら興行先で女達が放っておかないだろう。
アロイスはつい見とれそうになりながらも、周囲に注意を払った。参列者はおおむね曲芸を楽しんでいる。リドも感心したように曲芸を眺めているが、フラビオはあまり興味がないようで、しきりに懐中時計を取り出している。別の間に食事が用意され、客がくつろいで過ごすことになっているから、料理人達に指示を出す機を測りかねてそわそわとしているのだろう。
セヴランは軽く笑みを浮かべていた。熱愛する女をようやく手に入れることができたという、満足感の表れのようだった。自分の思うようにいったのだから、憐れな弟妹が同居するくらい良いじゃないかと、アロイスは腹立たしくなった。駄目もとでガルシアに頼み込んでみるかと、当主の妻になった女の方に視線を移す。
ガルシアは熱心に曲芸を見つめていた。息子が失踪したときを想起しそうだから、彼女は退出するのではとアロイスは予想していたから、これは意外だった。その眼差しはジュディットと同じ、いやもっと熱がこもっていた。
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