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十
我に返った士長達と使用人の通報で駆けつけた兵士達により、ガルシアとミオット一座は捕らえられ、地下牢に収監された。少年の服を脱がせたところ体中に痣があり、かつて身の回りの世話をしていた侍女たちの証言により、間違いなくエルウェであることがわかった。少年は話すことができず、簡単な言葉と身振りを解するだけで、あのような複雑な曲芸をどうしてこなせるのか不思議なくらいだった。
ミオットとエルウェは処刑されることがほぼ決定していた。直接手を下していないゴナの若者達、そしてガルシアをどうするか、士長達の中でも意見が割れていた。今やレビオール家の当主となったアロイスも、歳が近い青年に厳罰を与えるのにはためらいがあるらしい。
もはや道化の姿をしていることに意味を感じなくなったリドは、化粧をすっかり落とし簡素な服を身に付けて、城の地下へ向かった。警備の者はあまりやる気が無く、リドが適当な理由を伝えると怪しみもせず牢のある区画に通してくれた。
ミオットは弟子達から離された独房に居て、リドが声をかけると、白く濁った目を向けた。
「セヴランに飼われている道化だな?」
リドはうっすらと笑った。
「よくわかりましたね。まあ、私を飼っているのはセヴランの弟ですが」
「無駄に歳はとっておらん。その肌の色……白粉を塗りたくっても隠しきれぬわ」
「本当?高級品を使ってるんだけどなあ」
リドは肌のにおいを嗅いだ。
「そのうち、毒が体に回るだろうよ」
「大丈夫。もう道化の格好はしないから」
ミオットはまじまじとリドを見つめた。濁っているのは右眼だけで、左眼は弛んだ瞼の下で鋭い光を放っている。
「お主、サバル族だろう?」
「……すぐにバレてしまいますね」
「当たり前だろう。つまらん道化の姿を見たときから気づいておった。さて、何を企んでおるのか」
リドは肩をすくめた。
「だいぶ厳しく事情聴取されたようですが」
「そこまでではない。素直に答えたからな」
「へえ……亡国の民が復讐を果たしたと?」
ミオットは低く笑い、取調べにおける応答を再現してみせた。曰く、我が国王とその家族を殺害し、王女を陵辱した輩に復讐するのは、当然のことである。一族全てを殺害ことができなかったのは、残念だった。自分たちはし損なったが、いつかゴナの民が再びレビオールの末裔を狙うだろう、と。
「俺がサバル族とおわかりなら、どうしてこんな手の込んだことをしたのか、教えてください。これでも単身で乗り込んでいるんだ」
「それならわかっておるだろう。暗殺は容易なことではない。手を下した者も命をかけるしかない。儂は王女……ガルシア様が危険を冒すことはさせたくなかった」
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