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「あとはお前さんが見た通りだ。ガルシア様がお気持ちを変えないかが気懸かりだったが、よく耐えてくれた。あとは黙ってさえいてくれれば、儂とエルウェが地獄に行けばよい」
「あの少年を道連れですか?それは可哀想だ」
ミオットの態度は頑なだった。
「あれが居ては、ガルシア様が幸せになれぬ。死罪にならずとも、母子の縁は切って弟子達に託すつもりだ。エルウェはガルシア様が母親だと理解できていないからな。ガルシア様が思い切れば、全て上手く行く」
「エルウェはガルシア様の子供でしょう」
「レビオール家の人間だ。あの痣……」
老人は床に唾を吐いた。これ以上聞き出すことはない。リドが立ち上がると、ミオットは目を剥いた。濁っている方の眼球は神経も切れているのか、破裂しそうなほどに膨らんでいる。
「お主は何のためにこの城に残っている?飼い犬のままでいるのか?」
責め立てるような口調に、リドは苦笑した。
「確かに、兄妹の気まぐれに付き合っていれば、美味い飯と快適
な寝床が与えられていたから、本来の目的を忘れかけていたところでした」
「本来の目的?」
リドは頷いた。
「まあ任せてください。こうなったからには、しくじるわけにはいきません」
呆気に取られているミオットを残して、リドは牢獄を後にした。ガルシアの顔を見られないのが心残りではあった。聞いた話では、彼女の牢の鍵は兵団長によって厳重に管理され、食事も格子ごしに渡されているとか。あの美貌に心乱され、規律を破る者が出るのを警戒しているのだ。
リドは階段を上り、午後の光が差し込む控室に戻った。当番兵は相変わらず、机の上に肘をついてあくびをしている。
「もういいのですか」
主が殺されたというのに、現場を目の当たりにしていないせいか、暢気なものである。まあそれくらいの方が良い。レビオール家の生き残りであるアロイスやジュディットに護衛がついてしまっては、いくらお抱え道化師といえども近づくのが難しくなる。
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