19人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら、手品でも見せてくれるの?」
「いいえ、これはイカサマ用の骰子なのですよ」
リドが指先に力を込めると、骰子の面がひとつ外れた。
「この中に鉛の玉を入れると、重さに偏りが出ます。骰子を振るときに手首の角度を変えると、望みの目を出すことができます。もちろん、訓練が必要ですがね」
リドが骰子を傾けると、鉛の玉ではなくほんの小さな丸薬のようなものが転がり出た。
「これは何?」
「お守りです」
「どういうことかしら。わたしには毒薬に見えるけど」
「流石はジュディット様。これはサバル族に伝わる毒です」
「苦しまずに死ねるの?」
「残念ながら苦痛はあります。しかし一瞬です」
「ふうん」
渡された骰子を掌の上で転がすジュディットの表情は、すこし明るくなっていた。
「自分の生死を決められるというのは、何だか良いものね……これかあれば、城を出る勇気が出そうだわ」
ジュディットは口を隠して欠伸をし、ベッドの上に重なった服の中から白い絹の肌着を引っ張り出した。
「貴方の勧めに従って、休むことにするわ。着替えるから出て行ってくれる?」
「わかりました」
リドは優雅な仕草で一礼した。
「そういうのを見ると、貴方はただの道化ではないように思えるわ」
「……」
「アロイスによろしくね。わたし、あの子には会わずに城を出たいの」
「何故でしょうか」
「だってあの子、何だか変わってしまったようなんだもの」
リドはもう一度黙礼し、ジュディットに背を向けた。扉へと向かいながらそれとなく背後を窺うと、喪服のジュディットはテーブルに置かれたままの茶碗を取り上げ、飲み干そうかどうか迷っているようだった。
リドは足早に部屋を出て、扉を閉めた。
しばらく扉に寄り掛かっていたが、扉の向こうからは何の音も聞こえなかった。
最初のコメントを投稿しよう!