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「あら、手品でも見せてくれるの?」 「いいえ、これはイカサマ用の骰子なのですよ」  リドが指先に力を込めると、骰子の面がひとつ外れた。 「この中に鉛の玉を入れると、重さに偏りが出ます。骰子を振るときに手首の角度を変えると、望みの目を出すことができます。もちろん、訓練が必要ですがね」  リドが骰子を傾けると、鉛の玉ではなくほんの小さな丸薬のようなものが転がり出た。 「これは何?」 「お守りです」 「どういうことかしら。わたしには毒薬に見えるけど」 「流石はジュディット様。これはサバル族に伝わる毒です」 「苦しまずに死ねるの?」 「残念ながら苦痛はあります。しかし一瞬です」 「ふうん」  渡された骰子を掌の上で転がすジュディットの表情は、すこし明るくなっていた。 「自分の生死を決められるというのは、何だか良いものね……これかあれば、城を出る勇気が出そうだわ」  ジュディットは口を隠して欠伸をし、ベッドの上に重なった服の中から白い絹の肌着を引っ張り出した。 「貴方の勧めに従って、休むことにするわ。着替えるから出て行ってくれる?」 「わかりました」  リドは優雅な仕草で一礼した。 「そういうのを見ると、貴方はただの道化ではないように思えるわ」 「……」 「アロイスによろしくね。わたし、あの子には会わずに城を出たいの」 「何故でしょうか」 「だってあの子、何だか変わってしまったようなんだもの」  リドはもう一度黙礼し、ジュディットに背を向けた。扉へと向かいながらそれとなく背後を窺うと、喪服のジュディットはテーブルに置かれたままの茶碗を取り上げ、飲み干そうかどうか迷っているようだった。  リドは足早に部屋を出て、扉を閉めた。  しばらく扉に寄り掛かっていたが、扉の向こうからは何の音も聞こえなかった。
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