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「積んであった薪の陰に隠れたから、ガルシアは気づかずに僕の脇を通って階段を上がっていったよ。人目を憚るようにこそこそしていたよ。しばらくして、兄貴が出てきて、階段を上がっていった」 「話し合いでもしていたんじゃないか?」 「それなら広間で済む。フラビオが紅茶と軽食を出してくれる」 「内密にしたかったんだろう」 「ねえ、最後まで聴いてよ。ガルシアの服は乱れてて、彼女は両手で袷を押さえていたんだ。髪も晩餐のときは綺麗に結い上げていたのが崩れていたし」 「……取っ組み合いの喧嘩をしたわけじゃなさそうだな」  リドの言葉にアロイスは満足そうに頷いた。 「兄貴は僕と違って文武両道、優秀な跡取りで人望も厚い。それが、内縁とはいえ父親の妻と……なんて、信じられないよね。まあガルシアは凄い美人だから、魔が差したんだろう。僕だって彼女のあられもない姿を見たときには、ちょっと気持ちが動いたもの」 「お前も女に興味を持つことがあるんだ」 「何言ってるの。僕は童貞じゃないよ」  アロイスはにやにやして、リドの臍の下に手を伸ばす。リドも気分が出てきて、細い体を組み敷いた。風が強まってきたようで、窓ががたがたと揺れる。その音に合わせて、アロイスは艶のある声を上げた。 「リド、まだ……そんなに激しくしないで……」 「相変わらず、我儘だな」 「夜は始まったばかりだよ」  リドが力を抜くと、アロイスは昂りを抑えるように呼吸を整えた。 「ガルシアはまだ二十五くらいだろ?あの若さで後家って訳にはいかないよね。親父の子供が居なくてよかったな。ややこしいことになるところだった」 「流石のヘロディス様も子供はできなかったのか」 「いや、マ=モン城に来てからすぐに妊娠して……男の子を産んだよ。親父は年甲斐もなく喜んでたっけ」 「子供を産んでいるのか」  リドが思わず腰を止めると、アロイスは薄目を開けて不満げに唸った。 「なあに、リドもガルシアに興味あるわけ?」 「いや、子供のことが気になったたけだ」 「ふうん?……男の子だよ。生きていれば九歳だね」 「死んだのか?」 「……ということになってる。厳密に言えば行方不明なんだ」 「人攫いにでもあったのか?」 「んー……」  アロイスは急に真面目な顔になって、顔に掛かるリドの髪を払いのけた。 「ねえ、まだよちよち歩きの子供を(かどわ)かして、どうするのかなあ?」 「色々あるだろう。奴隷にしたり、跡取りのいない貴族に大金で売ったり……」 「エルウェは可愛い顔をしてたからな……帝都の貴族の養子にでも収まってたら、こんな辺境よりいい暮らしができるかもしれない」  皮肉めいた言葉を吐いてから、アロイスは思い出したように呟く。 「……あの子も親父そっくりの痣があったから、貴族の養子は無理か。可哀想に」  そして感傷を振り切るかのように、リドの体にしがみついた。
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