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犯人即判明
オフィスから、家に帰ろうとしていた島原雪次は、不意に鳴った携帯に手を伸ばしていた。
「私だ。何がトゥットゥットゥットゥーだ!カトケン気取りか!若年層に一切伝わらんことを言うなお前は!俺が送ったメールは?見てない?!サボった?!お前クビになりたいのか?!――あー。ちょっと待て」
そこで島原は、一切情報に触れていない情弱の馬鹿に、何を伝えるのかを考えて、胡乱でしかない情報を伝えた。
「最近、警視庁管内で、未成年者の行方不明事件が起きている。まあ今のところ霊災の認定も降りておらず、俺の古巣への噂話程度のものなんだが。ん?それより、お前、何を怒っている?」
島原はそう言った。
「ふーん。まあ今のところ警視庁にやらせといた方がいい。あ。うん。え?あああれだ、怒っちゃいないんだが、鵺春の奴が生意気言ったんでな?ちょいとギャフンと言わせようと思ってな?」
勘解由小路は涼しい顔で言った。
また、宗晴氏か。島原は、暗澹とした気持ちになっていた。
「俺のところにも来たぞ?文化祭の警備依頼だそうだ。準級祓魔官をありったけ派遣しろとか、まあ無茶を言ってきていた」
そこで、島原は気付いた。多分、俺の声を聞き流しながら、こいつは常に指輪にアクセスしているのではなかろうか。
永遠の真理。「ソロモンの指輪」に。
「まあ、鵺春は鵺春で星読みだからなあいつは。多分、企業体としての稲荷山の存続に為に、必要だからこそ言ってきたんだろう。ああ島原、さっきの行方不明な?どうせあれだろ?東横キッズみたいな、家飛び出して遊んで歩いてる、しょうもないガキなんだろ?あれだ、チャリで来た。的な」
「そうらしいが。何か解ったのか?」
「ああ。だったら、警視庁にはこう伝えてやれ。犯人は、未練たらしい14世紀のフランス人の悪党だと」
何?島原は記憶を辿った。
大学時代の恩師、サー・ロックハート教授の言葉、勘解由小路の言葉。
14世紀は100年戦争の頃で、それで話題に上がるのはまずジャンヌ・ダルクだ。
ジャンヌに絡みそうな人物で、未練たらしい悪党といえば。
島原の心胆が、ゾッと冷え上がった。
「つまり、行方不明になった少年の安否は」
「ああ死んでいる。遺体が出たら、肛門に裂傷がないか、調べさせろ。あいつの手口は覚えているか?」
稀代の少年殺し。ヨーロッパ研究の大家、桐生操の著書でも読んだ。
部屋中に並べられた首。かっ切られた喉。
あいつは、だが、どうして?
「青髯――か。確かに祓魔課の案件だ。だが、どうやって、ジル・ド・レは復活したんだ?」
奇跡の聖女、ジャンヌ・ダルクの陰にあった猟奇。
いてはならなかった男。それが――ジル・ド・レだった。
「さあ解らん。ただ、あいつがいずれ行き着く帰結と、鵺春の生意気な物言い。全ては、ある一点で交差する」
「文化祭――か。すぐに通達しよう」
「田所達には、知らせん方がいいな。それはこっちで処理しておく。しばらく、忙しくなるぞ?」
「帰り際に、そういうことを言うな」
帰れなくなってしまった、島原はそう言った。
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