鵺春とおにぎり

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鵺春とおにぎり

 ああしかし、順調そうだな。私立狐魂堂学園理事長、稲荷山宗晴は、そんなことをぼうっと考えていた。  婚約者の小田切榮と、手を組んだアメリカの交換研修生、ライルによる、大規模な建築がもう始まっていた。  巨大な柱を、地面に突き刺しているのは、確かイギリスに伝わる巨人、トロールだった。  これがあるのだ。通常の建設だと、年単位かかるような事業が、わずか半月で出来てしまうのが、我々の力だった。 「宗晴様?どうでしょう?建築は、極めて順調ですわ?」 「確かに、そのようだ。ただ、ああ言うものの場合、ハードよりも、ソフトの方が大事だとは思うが」 「そりゃあ、まあ、そうなんだんだけどよ?うちのトロール組なら、やる気出しゃピラミッドだって建ててやるぜ。ただな?ガキに俺の足は狙わせねえ絶対に」  何やら、よく解らんことを言っていた。  確かに、榮の企画した、西洋ホラーハウスの方が、百鬼姫の企画よりも斬新なのではないか?とは思うし、ライルの妖精使役術は、あれは独自にして素晴らしい技術であるのも間違いない。  あれだけの妖精を従えるような男を、平気で排泄物、とか言う勘解由小路がおかしいのだ。  どう考えても、人材の無駄遣いをしているような、気がしてならないのだ。  ぷー。ライルが煙を吐いた。メビウスの臭い。ここ(学園内)は、禁煙なのだが。  そもそもお前、二十歳とっくにすぎてても、今は高校生だろうに。  喫煙習慣のない宗晴には、こいつはただの悪臭でしかなかった。 「ねえ、宗晴様。この建物、文化祭後も、残せませんでしょうか?」  そんな訳にはいかない。サッカー部の練習が出来んだろうに。 「だって、これだけの規模なら、結婚式だって、挙げられますわ」  確かに、この娘は可愛い。  俺如き、家庭内カーストのダリット無勢を、まるで世界の覇者のように持ち上げ、慕ってくれる、こんないい女はいないとは思う。  ああ、昨日、避妊しなかったし、そろそろ、出来るのだろうとも思う。  榮自身、卒業前に結婚する気満々らしいし。  だが、だが、それでも、これでいいのか?という気がしている。  確かに綺麗なのだが、どうにも、白い巨塔辺りにでもいそうな、医院長の嫁の集団を見ているような気がして、ハッキリ言って白けるのだ。  ああ、そう言えば昨日、ヨロヨロになった勘解由小路の馬鹿が、チェアに座って校庭内をうろついていたのを思い出した。  え?ああ、何かいたなあ。鵺春と、おにぎりんちの小娘かあ。百姓が芋でも掘ってるのか?じゃあ今年の年貢減らしてやるか。ありがとうございますはどうした?メキシコ。とか、その目は言っていた。  俺はメキシコじゃねえって何遍言わせる!  芋なんか掘ってねえよう!許さねえぞ勘解由小路ゴラああああああああああああああ!  百鬼姫のガキと、揃って敗北しろ!お前なんか!  鵺春は、行き着くとこまでいこうと、決意していた。
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