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魔上皇
袋田さんの翼を生やした勘解由小路が、不意にヤコに背を向け、話し始めた。
「今回の、しょうもない事件がもしあるとするならば、ジル・ド・レの発生があった。とっくにぶら下がったはずの、頭の悪い性倒錯者が何故か復活し、いたずらに、ガキ共を殺し始めていた。サイドマンは、そこに転がっているフランソワ・プレラーティーだろう。元々が、ジル・ド・レのお先棒を担いでた変態野郎だ。奴の前に、自分が食い残してた餌をちらつかせていた。まだ生きてるだろう?この死に損ないが。真琴?いるな?」
ええ。コツコツという、ヒールの音を立て、恐怖の母親が、プレラーティーを片手で持ち上げた。
「ま――まって、くだひゃい!」
「地獄が生んだ卑劣には、こう応えるしかありません。お帰りなさい。まだ、帰る場所が、少しでも残っているならば」
モノクルをずらし、プレラーティーを凝視した。
金色の、邪悪な蛇紋が、プレラーティーを一瞬で締め付け、邪悪な錬金術師は、魂まで殺し尽くされて、砂になっていった。
「さて。でー。尊答を、謝し奉ろうかね?」
勘解由小路の視線を受けて、東雲夜子は応えた。
「パパ。思った以上に、ダサい」
シーンと、静まりかえった。
「え?俺が?」
信じられん。っていう顔をしていた。
「まあいいやそれは。それで、ゾーイのガキ。お前の母親は、誰だ?」
「っていうか、杖がダサい。装具ギシギシ言ってて、なおさらダサい」
幼児は、父親に対して、にべもなかった。
「多分、口臭臭い。全身から臭い。ホントに臭い」
もう、嫌悪感半端なかった。
「お前ええええええええええええええええ!莉里のパパを臭いだと?!てか、パパってお前」
「待ってください。莉里ちゃん。おい。私の目を見ろ。お前」
「うん。みんな待とうな?少なくとも、上位存在に対する礼儀を教えてやらんとな?三田村さん。フルボッコの用意だ。ん?いや」
そこで、勘解由小路は屋上の扉に目を向けた。
ゆっくりとした、階段を上る音が聞こえた。
恐ろしい霊気を撒き散らし、ヤコは、わずかに身を震わせた。
恐らく、初めての邂逅のはずだ。彼女にとっては。
自分と、ほぼ同意の存在を、目の当たりにするのは。
「おう。流紫降。今ちょうどな?うちの家族が、こいつをフルボッコにしようって、意見が纏まりかけててな?」
「父さん。ごめん。ちょっと待ってて欲しい」
恐ろしい魔神皇、勘解由小路流紫降が、ここに影向していた。
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