変化

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 警察庁祓魔課の休息 女皇降臨文化祭熱闘編新装版  音楽クリエイター鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)こと、人化オーガの銀正男(しろがねまさお)は、自分の体に起こった、奇妙な変化を感じずにはいられなかった。  何だろうなあ、中国から帰ってきてから、何かがおかしいんだよなあ。  元来、正男はスポーツ関係がからっきしな男だった。  小学校時代、鈍足のポルナレフ、鈍ポルとか言われてぶち殺そうかと思った奴を知ってる。  そいつ?知らねえ。今頃嫁とイチャついてるんだろうぜ。  リザーバー――人造湖に浮かべたボートの上で、正男はロッドを握っていた。  20ポンドのラインの先に繋げているのは、クリークチャブのキャス練用の爆弾形の、フックのないプラグだった。  2000円で売っていた、ニンジンを逆にしたような先太りの奴だった。  5/8だったよな?結構重いルアーなんだが、重みを全く感じない。  ロッドに繋いだリールも、アブガルシアの大型のベイトリールで、ロッドもツーハンドのロングロッドだった。  こんなので練習?頭どうかしてる。  バスじゃなくて、3メートルのガーでも釣るのか?ってセッティングだよな。  8尺の、青魚(アオ)釣るようのロッドもあったけど、流石になあ。  あれだ、三日月湖で魚紳が鯉平然と釣ったような、あれな?  それで、正男はエクストラハードのロッドをチョイスしたのだ。  ほぼ、ジギング用のロッドだよなあ。日本じゃベイトでジギングあんまりやらないし。  クラッチをフリーにし、正男は、本来両手で振るうはずのロッドを、片手で振った。  ガチガチの、殆ど棒みたいなロッドが、腰のない鱒レンジャーか何かか?というレベルで曲がり、重さ20グラムほどの偽ルアーが、恐ろしいスピードでぶっ飛んでいった。  メカニカルブレーキと、遠心ブレーキ最大まで利かせていたのに、容易にスプールが空転しかけ、バララっとラインが膨らみ始めた。  ルアーの飛行速度と、スプールの回転速度が合わない場合、ラインがグチャグチャに絡んでしまう現象、バックラッシュが起きかけていた。  慣れた手つきで、スプール周辺に膨らんだラインに、指を添えるサミングを行った。 押さえてしまうとスプールが止まってしまうから、スプールの速度を落とさないようにラインに触れなきゃならない。  ブレーキ機構でカバー出来ない時の為の、とっておきの上級テクニックだ。  新品で買った奴はこれだあ。バックラしねえようにしねえと、ありゃ?  ラインが全て出きってしまい、スプールシャフトがコツンという振動を立てた。  スプールに、ガッチリライン結んどいてよかった。  有り得ねえ。300メートル巻いてあったんだぞ。  巻き切るのに何分かかるんだ。  たったワンキャストで、全てのラインが飛んで行ってしまった。  よし、アメリカ行ってガー釣るか。っておい。  腰に差した混元傘は、最初は鉛のように重かったのだが、今ではコンビニのビニール傘くらいだった。  恐ろしいスピードで、霊的に活性していく体。  腰に差した混元傘を引き抜いた。  正男、これを常に持ち歩いとけ。実際に使うなよ?死人が出るかも知れんし。十天君相手にしたことを、暇な時にイメージしたりしてればいい。  未だに、人をポルナレフ扱いする野郎はこうも言った。  多分、それが大きな差が出てくるのはな、事態が酷いことになった時だ。少しずつでいい。毎日やれ。オルガン毎日触るようにな。  とりあえず、責任取れよ、勘解由小路(かでのこうじ)。  傘を広げ、正男は、思い切り、ボートから跳躍した。  あ?うおおおおい!  思った以上の高さを飛んでしまい、思わず慌てたが、体が、自然とイメージ通りに傘を逆さに反転させていた。  これ自身が、火をグレネードみたいに打ち出す宝貝ってのは知ってるし、その反動がデカいのも解ってる。  平日でよかったぜ。お陰で、思い切りやれる。  いつしか、正男は混元傘に足をかけ、空を自在に飛んでいた。  殆ど白目をむいた正男が、湖の縁に降り立ち、目撃者がいないのをいいことに、  軽く、尿失禁していた。  
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