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第1話 婚約者の失踪
私の婚約者が、忽然と姿を消した。
三日前までは顔を合わせていたし、行方不明になるようなそぶりも前兆もなかった。
当然だ。私の婚約者は我が国の王太子、ライオネル殿下である。
彼が行方不明になることは、すなわち国の危機。
箝口令が敷かれているため、彼が姿を消したことはごくごく近い者にしか知らされていない。
心当たりのある場所は全て探したが見つからず、五歳の頃からライオネル殿下と婚約している私――エレナ・ノイバウアーに白羽の矢が立った。
彼の行方について何か知っていることはないかと確認するため、ライオネル殿下の側近のウェスリーから呼び出されたのだ。
「私がライオネル殿下に最後にお会いしたのは、三日前の夕方です。その後のことは存じ上げません」
「外出の予定や、出かけるそぶりなどはありませんでしたか?」
「ええ。ライオネル殿下が私に個人的なお話をなさることはありませんわ。殿下と私が犬猿の仲であることは、ウェスリー様もよくご存じのはずですが」
「しかし……」
私は知っている。ライオネル殿下と側近のウェスリーが、私のことをよく思っていないことを。
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