80人が本棚に入れています
本棚に追加
巷では氷の令嬢と呼ばれるほど、冷たくて愛想がない私。長所と言えば学問が得意なところくらいで、ライオネル殿下にとって私は、面白味も何もない、ただのお飾りのような女だ。
いや、もはや女としてすら見られていないかもしれない。
「週明けには正式に殿下と私の結婚式の日取りが決まりますでしょう? 殿下はそれが嫌で逃げ出したのではないですか?」
「……そんな訳がないでしょう! ライオネル殿下はエレナ嬢とのご結婚を楽しみになさってました」
「見え透いた嘘は面白くありませんわよ。とにかく、私からこれ以上お伝えできることはございませんので。私との婚約解消をなさりたいなら、正式に我がノイバウアー侯爵家に申し入れてくだされば結構よ」
何も言えずに立ち尽くしているウェスリーを置いて、私は部屋を出た。
王城裏の庭園には、まさか王太子失踪事件が現在進行中だとは思えないほど、うららかな春の日差しがふりそそいでいる。
(どうせ、すぐに出てくるわよ)
最初のコメントを投稿しよう!