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ライオネル王太子殿下は優秀で常識的な人間だ。「結婚が嫌で逃げ出したのではないか」なんてウェスリーに嫌味は言ったが、殿下がご自分の感情に任せて無責任に逃げ出すような方ではないことは、私が一番よく知っている。
ただ、彼には少々自由奔放な面もあるから、時々こうして周囲の想定を飛び越えた行動を起こすことがある。今回だってそんなに心配しなくても、放っておけばそのうちフラッと戻ってくるだろう。
(振り回されるのも馬鹿らしいわ。私は私のできることを、いつも通りやるだけ)
私はいつものように、王城の庭園を抜け、裏手にある図書館にやってきた。
人気のない図書館の一番奥の部屋に籠り、未来の王太子妃として恥ずかしくないように勉強するのが私の日課だ。
「さて、今日も始めますか」
書棚の奥に隠していた袋を出してきて、ドスンと机の上に載せる。
その中から私が取り出したのは、眼鏡、前髪を止めておくための極太ヘアバンド、そして耳栓。
私のガリ勉三点セットだ。
まずヘアバンドをつけて前髪が顔にかからないようにしっかりと留め、度数の高い瓶底メガネを装着。そして最後に両耳に耳栓。
誰も見ていないのをいいことに、椅子の上に胡坐をかいて、ガリガリとペンを走らせた。
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