悪者の色

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「くそっ、離れねぇ」  とりもちに掬われてしまった足はあげようにも限界があり、歩くこともままならない。 「ごーきっききき、人間ホイホイの力、思い知ったかリン!」 「ちっ」  相手は敵を一人仕留めて、上機嫌だ。技名まで教えてきやがる。人間ホイホイ、おそらくはゴキブリ用のホイホイと同じ要領……とはいえ、その仕組みを知らないから脱出方法なんて思い浮かびもしない。 「うえぇぇぇん! ママぁぁパパぁぁ、助けてぇぇ!」  それに間近で少女が泣きだす始末。この子をあやしながら脱出を図らなければならないらしい。 「お前、なんでこんな危ないところに突っ込んできたんだ?」 「ママとはぐれちゃったから……」 「だからって一人でこんなところに来たら駄目に決まってるだろ」 「う、わ、あぁ……ごめんなさぁぁぁい」  また子どもが泣き始めてしまった。敵の罠に引っ掛かってピリピリしすぎたのかもしれない。確か、黄田にも言われたな。スマイルスマイル。しかし、ニコニコして少女を見るが、少女は泣き止む気配がない。……そういえば、マスクをかぶっているから笑っても表情が見えないじゃないか。  黄田は何とか追いついて殺虫剤を撒くことはできた。これでなんとか、とんでもないスピードで逃げられることはなくなったが、次は分身がたくさん湧いてきた。一匹いたら100匹いる上に、しぶとい。ちょっとやそっとの攻撃じゃよろけもしない。本家に忠実な点が腹立つ。くそ、せめて俺がいけたら何か状況が変わっていたかもしれないのに……。 「このまま、帰れなかったらどうしよう……」  泣きつかれて、泣き方は先ほどよりも大人しい。だからこそ、しおらしく見える。 「帰れねぇことなんてねぇさ。俺がちゃんとママとパパの元に帰してやる」 「どうやって?」 「それはだな……」  大口叩いたけれども、明確なビジョンはない。その場の気分で調子のいいことを言って、突っ込まれた政治家のように言葉に詰まってしまった。 「……とりあえず、このネバネバを脱出して、お前は逃げろ。それで、俺があの怪人を倒す」 「うん。どうしたら出られるの?」 「……あ、えーと俺の仲間がもうすぐ助けに来てくれるから、ちょっとだけ待ってくれるかな……」 「うん」  とりあえず、この子を不安にさせないように嘘は吐いたものの、バレるのは時間の問題だ。ただ待つにしたって気まずいだけだし。
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