彼女とチョコミントを遠ざけたい

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 まず、おれはこの世界にチョコミントフレーバーを生み出した存在に向けて問いたい。どうして、それらをミックスしようと思ったのか。チョコもミントもそれぞれに独立した良さがあるというのに、それをアッと融合させた途端に忌避感が生まれてしまうとは考えなかったのか。チョコレートの甘さとミントの爽やかさの組み合わせなんて、野菜が山盛りになった背油豚骨ラーメンを食って「野菜が摂れるので実質ゼロカロリーです」などと宣うようなものだ。  同じ理由で、ファミレスのドリンクバーにのさばる「いちご抹茶オレ」も許しがたい存在ではあるが、おれが一番許せないのはチョコミント。  そう、おれの好きな女子の気持ちを掴んで離さない、チョコミント。  唯花はチョコミント味のアイスが大好物で、遊びに出かけてそれを食べるときも「きみも一口いる?」とスプーンを差し出してくる。健康優良日本男児としては当然ノータイムでむしゃぶりつきたいところだが、そのスプーンの上には百パーセント、ミントグリーンの冷えた乳脂肪分の塊が鎮座している。  そこにあるのがバニラなら最高だ。チョコでもいい。なんならストロベリーでも許される。しかしそれはチョコミント。ミント味が食いたきゃガムでも嚙んだほうが歯や顎にも良いだろうが。  今日も例によって、アイスクリームショップに立ち寄って唯花がオーダーしたのは、チョコミント。唯花の控えめな唇が開き、生じたクレバスの奥に消えていくチョコミント。お先に失礼、とばかりにチョコミント。おまえはおれになんの恨みがあるんだチョコミント。唯花との、間接ではない最初のキスもチョコミント味なんだろうか。もう少し甘くしたくて、でも言葉が思いつかなくて、夏霞。これこそ季語。  きっとこの感じを見るに、唯花は冬になったら暖房の効いた部屋でモコモコした部屋着をまといながら、チョコミントのアイスを頬張っているのだろう。絵にはなるけど我慢ならない。嗚呼、もう耐えられそうにない。  そもそも彼女には、チョコミント以外を食べたいと思うタイミングはないのだろうか。  何事も、訊きかたが重要だ。無用な争いを避けるためには、どちらかだけが気分のよいやりとりではなく、お互いにハッピーになれることを目指さなくてはならない。
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