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「殿下のお部屋は、初めてですね。ずっとこちらで過ごされたのですか?」
「いや、大学入学時に成人ということで、この太子の宮に移った」
「『アーキス・トレボーの真実』『四元素論の見直し』……殿下らしいですね」
メアリは、書棚の本の背表紙を見つめている。
書斎は別にあるが、寝る前に読みたい本を並べているうちに、棚が埋まってしまった。
セバスチャンが『メアリ様は、殿下の退屈な話によく付き合われる』と感心していた。
「今度は、テイラー女史の新作を加えることにしよう。主人公は魔王ネクロザールか」
「ですから、先生の小説は、殿下が読む本ではありません!」
口を尖らせるメアリも可愛らしい。
彼女を壁際のソファに導いた。
「君のお父上とお母上は……君の気持ちを知っているのか?」
「はい。婚約破棄については、殿下とよく話し合おうように、と言われました。破棄が認められれば、前世の公表は好きにして良いと。ただし屋敷を出ることは反対されています……」
「ペンブルック伯夫妻は、君を愛している。だから、夫妻を悲しませることはしないでくれ」
メアリは、寂しげに首を傾げている。納得していないようだ。
「前から聞きたかったが、メアリが屋敷を抜け出しクマダ博士の研究室に行った時、ノーサンバレーの駅で、メイドたちが君を見失ったそうだね。どんな技を使ったのかい?」
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