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彼女の大好きなロマンス小説を思い出す。あの物語では、男女がよくわからない喧嘩をしていた。が、喧嘩のさなか、男が突然女を抱き上げるのだ。
真似をするつもりではないが、僕はメアリの腰と膝の下に腕を回した。彼女の両膝を伸ばし、僕の太ももの上に乗せる。そのまま腰をゆっくりと浮かせる。
お、重い……が、絶対に口にしてはいけない。ふらつきながら、なんとか立ち上がる。
「ふふ、お姫様抱っこって、ずっと憧れていました」
「前世から?」
メアリが首にしがみ付く。
しかし、腕と腰にのしかかる重量で、僕は立っているのが精一杯だ。どうやったら一歩を踏み出せるんだ?
彼女は背が高く、ことさら華奢というわけではない。背の低い僕と、重さはさほど変わらないだろう。
ロマンス小説では、抱き上げられた女は、男の腕の中で叫び暴れていた。しかし男は女の抵抗をものともせず、階段を上り寝室のベッドに女の体を放り投げるのだ。
信じられない。
やはりあれは、小説の出来事だ。普通の男ができる技ではない。
ふらつく僕にメアリは危険を感じたのだろう。
「ロバート様、申し訳ございません。私、太りすぎました」と泣きそうな声で呟く。情けないが、僕は彼女を床に降ろした。
彼女は華奢ではないが、太っているわけではない。僕が非力なだけだ。
女性に恥をかかせるなど、国民の規範どころではない。ネールガンドの一男子としてあってはならない。
父は正しかった。学問ばかりではなく、勇者セオドアの末裔として身体を鍛えるべきだった。
こんな情けないまま彼女と終わるのは、絶対に嫌だ!
思い出せ。女史のロマンス小説を。
多少強引な方法で、男女は夜を共にする。すると女は、あれほど反発していたのに、男と過ごした夜が忘れられなくなるのだ。
そうだ。
メアリだって明日の朝になれば、気持ちが変わるかもしれない。
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