30 前世からの運命

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30 前世からの運命

 ――僕は『ニホン』を知っている  僕の告白でメアリの緑色の眼が揺れだした。動かなくなった彼女の頭をそっと撫でた。 「小さい時から何度も同じ夢を見ていた……僕は、ブランケットにくるまって、路地に座り込んでいた。物乞いの子供だった」 「それは……どこで……」 「わからない。身なりの立派な紳士が、僕に金を恵んでくれた……彼は、『ニホン』から来たと言っていた。そのあと誰かが、『ニホン』は飲み水にも食べ物にも困ることのない豊かな国と教えてくれて……僕は憧れていて……夢に見るのはそれだけだ」 「な、なぜ今までそれを……」 「僕が乞食になった夢なんて、恥ずかしいだろ? 図書館で調べてもそのような国は見つからないし、伝説にも出てこない……王太子である自分がそんな夢を見たと明かせば、悪魔につかれたと断罪される」 「ロバート様! 私にだけは、もっと早く打ち明けてくださればよかったのに……」  メアリの疑問はもっともだ。僕が『ニホン』を幼い時から知っているなら、メアリが転生者と知った時点で打ち明けるのが自然だ。 「自分が生まれ変わりなど、認めたくなかった。王太子である僕自身が『魔王の手先』など、許されるはずがない」  メアリが首を傾げている。まだ納得できないのか眉を寄せている。 「君が『ニホン』からの生まれ変わりと聞き、衝撃を受けた。僕は……仲間がいた喜びと、婚約者まで悪魔つきだったという絶望の間で苦しみ……だからこそ、君の前世を消すことに執着した……本当にひどいことをした」  彼女の表情が、不信から憐憫に変化した。 「いいえ、私と違って、あなたは国王になられる方。ご自身が、史師エリオン様が忌み嫌う転生者だと、そう簡単に認められるものではありません。ずっとずっと苦しみの中にいらしたのね」  ふと温かさにくるまれた。メアリが僕をそっと抱き寄せ、頭を優しくなぜる。 「僕は卑怯な男だ。君のように、どこかにいる転生者を励ますため自らの前世を明かす勇気など、欠片も持ち合わせていない。君に軽蔑されても仕方ない」 「なにをおっしゃるのです! 王位継承者である方が転生者である苦しみは、私には想像もできません」 「僕には、離れていく君を止めることはできない……でも、君にひとかけらでも僕を哀れむ気持ちがあるなら、もう少しだけ傍にいてほしい」  僕の背中に回されたメアリの腕に、ぎゅっと力が込められる。 「いいえ! 命が尽きるまでロバート様にお仕えさせてください」
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