30 前世からの運命

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「ロバート様……」  ナイトガウンを羽織ったメアリが、ソファに腰かけている。ブルネットの巻き毛は濡れて、背中に流れている。 「宮殿のお風呂って、金箔が施された彫刻が美しくて驚きました。侍女の皆様のお世話になるのは恥ずかしいですね」  ガウンの下は、薄いネグリジェだけのはず。白い胸元が透けて見える。ジロジロ見るものではないが、豊かな膨らみにどうしても目が吸い寄せられる。 「ロバート様とこうしていると、胸がドキドキします」  僕も入浴をすませ、ガウンを羽織っているだけだ。  テーブルのワインクーラーには、年代物の白ワイン。チーズの盛り合わせが添えてある。セバスチャンのお節介だろうか。  メアリはチーズに手を伸ばすが「あ、その前に」と手を引っ込め、両手を合わせ、目を閉じた。 「史師エリオンは私たちを許されないでしょうが、毎日祈ります。私たちは転生者ですが、ネールガンド国に、ゴンドレシア大陸に、仇なすものではないと……」  やはり彼女の前世は、聖妃アタランテに思えてならない。 「僕も祈ろう。誰にも認められなくとも、今から君は僕の妻で、僕は君の夫だ。史師エリオンの教えの通り、互いを愛し敬い、決して裏切らないことを誓う。たとえ名が二つあろうと、想いは一つだ」  そろそろベッドに入りたいところだが、メアリがまた話しかけてきた。 「よく日本なんてご存知で……」 「君のためにもっと思い出したいが、記憶が曖昧なんだ……思い出さないようにしてきたから……」  僕はあえて、『ニホン』の外の国の出身者と名乗った。同じ国だと、風俗の違いで嘘が発覚するだろうから。「チキュウ」の「ニホン」というからには、別の国があるに違いない。  乞食としたのは、貧困層は富裕層と違い、どの国もあまり変わらないからだ。また世界への知識がなくても、教育を受けていないからと、理由づけができる。 「日本の旅行者が外国の貧しい子どもに金を恵んだとなると、戦後の豊かになった時代でしょうか。私と同じ時代かもしれませんね」 「そうなのか? 僕は『ニホン』について噂しか知らないから」 『ニホン』が本当に豊かな国なのかは不明だが、メアリが前世で衣食住に困窮した様子は、感じられなかった。一般的な階層の女性が、ひとりで旅を楽しめた国……貧困国家ではないのだろう。 「でも外国の方が『日本』を知っているとは、意外でした」  貧困ではない様子から外国との交流がある国と思いこんでいたが、間違えたか?
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