30 前世からの運命

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 僕がもっとも恐れること。  それは、ネールガンド一千万人の国民の中に、いや、我が国ではなくとも世界のどこかに、『ニホン』の前世の記憶を持つ者が存在することだ。  その者が、メアリの告白をきっかけに『前世』を明かしたらどうなる?  彼女は僕のことなど忘れて、喜び勇んでその者に飛びつくだろう。その者が男か女か、若者か年寄りかは問題ではない。自分が孤独ではないと知ったメアリは、すぐさまその『転生者』のもとに駆け付けるだろう。彼女の心は、『転生者』に支配されてしまう。  それだけは、絶対に阻止しなければならない。  僕は、勇者セオドアの末裔であることを誇りにしていた。国民が望む王位継承者でありたかった。  しかし今、女を手に入れるために嘘をついた。前世の告白以上に、罪深い所業だ。  このような僕を、史師エリオンはお許しにならないだろう。聖王アトレウスは、僕を地獄に導くだろう。  メアリのガウンをそっと外す。薄いネグリジェを通して、彼女の白い肌が輝く。清らかな肢体をベッドに横たわらせた。  愛しい婚約者は頬を染めて胸を覆い隠す。 「メアリ、愛しているよ」 「ロバート様……好き……嬉しい……」  長い睫毛が涙で光った。メアリはゆっくりと腕を伸ばし、僕の頬に白い指を滑らせる。  この喜びを得るためならば、地獄にだって飛び込んでやる。  宇宙すら支配できる強大な力が、全身に広がった。  僕にはもう、恐ろしいものはなかった。   <了>
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