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伯爵夫妻とメアリは、待機していた蒸気自動車に乗り込んだ。僕は宮殿の裏庭で見送った。
多くの国民が、貴族は今でも馬車で移動すると思っているらしいが、馬車を使うのは儀式の時だけだ。
そう、メアリが喜んでいたあのイリス勲章授与式のように。
儀式の日、僕は馬車で婚約者を迎えに行った。眼の色と同じ緑色のドレスに身を包んだ彼女は、聖妃像を思い起こさせる。いつも侍女たちより地味な昔風の服を着ているからか、僕は目を奪われた。他の婦人方が霞んでしまうのは、彼女の背の高さや豊かな胸が原因だろうが、それだけではなく……彼女の容姿を思い出している場合ではなかった。
自分の書斎に戻ると、太子侍従長の老セバスチャンが「国王陛下がお呼びです」と出迎えた。そのまま僕は、父の書斎に向かった。
部屋に入った途端、思い詰めた顔つきの両親と目が合った。
「困ったものだ。結婚式まで三か月か」
父オリバー五世は立ったまま書斎の机からティーカップを手に取った。
母キャロライン王妃はソファに沈み込み、俯いている。
「聞いたこともない国の『生まれ変わり』と口走るような令嬢では……カートレット家の末とはいえ、お前の妃とするわけにはいくまい」
「父上、ペンブルック伯令嬢は、妃に相応しい生まれで、容姿も優れています。カートレット一族は、我ら王家に忠実。彼女以上に妃に相応しい者は、このネールガンドにはおりません」
「お前は本当に令嬢を気に入っているからな。だからお前の希望通り、一日も早く結婚できるよう儀式を簡略化して進めたのだが」
母が割り込んできた。
「だからといって、花嫁衣装を仕立てる時間がもったいない、私のお下がりを仕立て直そうなんて……メアリ嬢がいつも昔の服を着ているとはいっても、花嫁衣裳は別でしょうに」
「父上、母上、誤解です。今の時代、豪奢な式は国民の反感を買うから、簡素な式を求めたまでです。父上は常日頃、ラテーヌ国の二の舞になってはならぬ、とおっしゃっているではありませんか」
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