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〇同・同・キッチン(夜)
誰もいないキッチン。
そこにチャイムの音が鳴る。
ジャージ姿の村山、バスタオルで頭を拭きながら、浴室から出てくる。
掛け時計を見ると、1時10分。
チャイム、もう一度鳴る。
流しのすりガラスの窓に、こちらを伺っている人影が写る。人影は坂井。
村山、戦慄して固まる。
坂井「いえ。違います。怪しくないです。さっき十字路で呼ばれたものです」
村山、えっ、て顔をする。
坂井「私をお呼びになりましたよね、村山さん」
村山、テーブルからスマホを取ると、110を押す。
坂井「ちょっと、ちょっと待ってください。怪しくないんですって」
村山、手を止める。
坂井「あ。すいません。そのまま手を止めて、私の話、聞いてください」
村山、緑色の通話ボタンの上に指を構えたまま、じっとしている。
坂井「先ほど商店街でですね、村山さんに呼ばれたんですけどね、私、すいません。その時ちょっとうとうとしてまして、すぐに伺えなかったんですよ。あの。お詫びにちょっとお酒も買ってきましたから、開けてくださいませんか。おつまみもあります」
村山、スマホを持ったまま、ドアの前に立つ。
坂井「やっとわかっていただけた」
村山「本物?悪魔?」
坂井「ええ」
村山「いやいやいやいや」
坂井「取って食う訳じゃありません。大丈夫ですよ。信用第一、迅速丁寧が売りなんです」
村山「商売?」
坂井「みたいなものです。まあ、話だけでも」
村山、恐る恐る鍵を開け、ドアを開ける。
立っているスーツ姿、坊主頭の坂井、腕にコンビニ袋をかけている。
人の好さそうな笑顔で丁寧なお辞儀をして名刺を見せる。
坂井「改めて初めまして。減算生命信用の坂井と申します。夜分お邪魔いたします。この度は当社の事業にご興味を示してくださり、ありがとうございます」
村山、渡された名刺を見る。
「減算生命信用 一級ライフコーディネイター 坂井正」
坂井「名刺はご覧いただけたら、返却していただいてます」
村山「はい?」
坂井「公にはできないものでですね」
村山「あ。ああ」
と納得して名刺を返す。
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