〇同・同・六畳間(夜)

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〇同・同・六畳間(夜)

CDプレーヤーから、小さくアコースティックブルースが聞こえる。 ギター、バディ・ガイ、ハープ、ジュニア・ウェルズのコンビ。 部屋には、アコースティックギターとエレキギターが立ててある。 テーブルの上には、栓の開いた缶ビール二本とおつまみ、バーボンの瓶とソーダのペットボトル。 坂井、正座をして座っている。 そこにキッチンから村山が入ってくる。 村山の手には、コップ二つとどんぶりに入った氷。 村山「坂井さん、足崩して、そろそろ。ホントまじで」 坂井「そうですね。はい。では失礼して」 坂井、足を崩して胡坐をかき、バーボンとソーダの蓋を開ける。 村山、座ると二つのコップに手で氷を入れる。 二人、バーボンとソーダを仲睦まじく注ぎ合いながら。 村山「やっぱブルースと言えば」 坂井「ええ。バーボンソーダです」 村山「なんだろうね、これ。音楽には合うお酒がある」 坂井「はい。演歌と言えば」 村山「日本酒」 坂井「沖縄民謡は」 村山「泡盛」 坂井「中国歌謡なら」 村山「あ。わかんない。何?」 坂井「紹興酒です。白酒もなかなか」 村山「へえ。今度試そう。とりあえず乾杯」 坂井「はい。乾杯」 村山と坂井、コップで乾杯する。 坂井「(音楽を聴きながら)いいっすよね、これ。家にもあります。ギターがバディ・ガイ、ハープはジュニア・ウェルズ」 村山「あ。詳しい」 坂井「ええ。まあ。お客様はブルースマンが多いものでですね、自然に。あの。村山さんはなんでブルースギターを?一応業務上、伺っておかないと」 村山「あ。はい。うーんと(と考える)。恥ずかしながら俺、趣味がまったくなくて。テレビばっかり見て生きてきた。成人してからは酒」 坂井「ああ。はい」 村山「でも、それでなんとなく満足してたんだけど、これじゃ女の人にモテない。モテるわけない。俺がモテない理由がわかった」 坂井「村山さん、29ですよね。僕とタメ」 村山「あ。そうなんだ。タメ」 坂井「はい。で?」 村山「うん。で、かっこいいからギターやろうってね。でも何から始めていいかわからない。たまたま手に取ったのがブルースの教則本で」 坂井「わあ。難易度」 村山「うん。難易度。でもそれでハマってさ、もう絶対うまくなりたい。いつかライブに出たい」 坂井「わかりました。女の人にモテたいのも、ライブに出たいのも真っ当な理由です。ちょっとギターお借りしてもいいですかね」
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