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〇木造アパート・101号室・六畳間(夜)
テーブルを挟んで座っている村山と坂井。
坂井の腿の上には村山のエレキギターが乗っている。
坂井、そのギターを右手でストロークしようとする。
村山「ちょい待ち。坂井さん」
と言って右手を出す。
坂井「はい?」
村山「それさ、坂井さんがチューニングして、じゃーんって弾くと、それで契約成立でしょ。そう聞いてる」
坂井「あ?あ、そうか」
村井「あ、そうか、じゃないよ」
坂井「はは。そんな乱暴なやり方は今はしませんよ。遥か昔の話です。それに、まだ村山さんのご要望、ちゃんと伺ってないじゃないですか。計算もしてない」
村山「あ。そんなことするの?」
坂井「勿論です。会社は信用第一。お客様のご要望を聞いて私が試算する。それをお客様に納得していただいて初めて契約成立です」
村山「悪魔に魂を売らないといけないんだよね」
坂井「ああ。そう伝えられてると思うんですけどね、実際には魂の価値なんて計算できないじゃないですか」
村山「ああ。まあね」
坂井「ギターが上手になる代償は、命の日数でお支払いいただきます」
村山「そうなんだ。それ、気になってた」
坂井「大杉さん、御存じですよね。ベースの」
村山「うん。坂井さんのことを教えてくれたのも大杉さんだもん」
坂井「大杉さんも僕のお客さんです」
村山「だからあんなにベース、上手なんだ」
坂井「上手でしたか。よかった」
村井「これ、聞いていいことかわかんないんだけど、大杉さんは何日分ぐらい払ったのかな」
坂井「個人情報になってしまうので本当は申し上げられないんですけど、一般的にあの位のご要望ですと」
村山「うん。あのぐらいだと?」
坂井「一年分ぐらいですかね」
村山、宙を見て考えている。
坂井「高い、ですか?」
村山「例えば俺が80年生きるはずだとすれば、そこからマイナス一年、79歳で死ぬっていうこと?」
坂井「ええ。そういうことです」
村山「悪くない取引かもしれない」
坂井「そう言っていただけると」
村山「あ。でもさ」
坂井「はい」
村山「ロバート・ジョンソンは27で亡くなってるよね」
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