〇綿花の畑の中の一本道・十字路(夜)

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〇綿花の畑の中の一本道・十字路(夜)

ブラウン、ジョンソンのギターを手に取り、ストロークする。 ひどい不協和音。顔に手を当てて苦笑しているブラウン。 その姿をきょとんと見つめているジョンソン。 坂井の声「ドン・ブラウンさんは僕の大先輩に当たる人です。彼をアメリカのミシシッピの十字路で呼んだのがロバート・ジョンソンです」 村山の声「知ってるんだ、その人、ってか悪魔」 坂井の声「はい。その話もブラウンさんも僕たちの間では有名です。ある日、酒に酔ってふらふらになった男がブラウンさんを呼んだ。国道161号と49号の十字路に座り込んでギターを弾いていた」 村山の声「俺と同じだ。十字路でギター」 坂井の声「ですね。で、まあ、ブラウンさんは商売ですから、十字路でギターを弾かれたら現れなくちゃならない」 ブラウン、笑いながら、ジョンソンのギターのチューニングをする。 村山の声「そこで悪魔のチューニングだ」 坂井の声「まあ、やりますよね。ギターを弾く前にチューニング。ロバート・ジョンソンのギターを手にしたとき、ブラウンさんはすぐに気づいたそうです」 村山の声「何を?」 坂井の声「チューニングが全然合ってない」 村山の声「え?」 坂井の声「チューニングが合ってなかったんですよ。レギュラーチューニングでも、オープンチューニングでもなかった。でたらめなチューニング。ロバート・ジョンソンはどうもそのチューニングのままステージに出てたらしい」 ブラウン、チューニングし終えたギターを少し弾くと、ジョンソンに返す。 受け取るジョンソン。 村山の声「それじゃ」 坂井の声「ブラウンさんは、ギターを正しいチューニングにしてあげただけです。それだけで、ロバート・ジョンソンはのちにあれだけの名声を得ました」 ブラウン、おかしそうに手をひらひら振ると、暗闇に消えていく。 坂井の声「ブラウンさんは、ロバート・ジョンソンから、一日分だけ命をいただいたって言ってます。二人の間に契約らしい契約はなかった」 村山の声「それじゃ、ロバート・ジョンソンが27歳で亡くなったのは一体」 坂井の声「それはもう、御自分でとしか言いようがない」 ジョンソン、ギターを持って立っている。 左の耳たぶを掻くと、セブンスコードをじゃらんと弾き、体が固まる。
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