19、急転直下

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19、急転直下

 事務所の玄関で、達也はさちと出くわした。その日は2月14日だった。仕事の後、2人で食事する予定だった。 2人並んで歩いて中に入ろうとしたら、誰かがさちと達也の間に割り込んだ。その拍子にさちが転けてしまった。  割り込んで来たのは、「お見合い相手」の泉だった。 泉は、「曽我部さん、ハッピーバレンタイン!」と言いながら胸に大きなハート型の箱を抱えていた。 コイツこそ、本物のストーカーだと達也は思った。 「あなた、アタマ大丈夫ですか?正式に2回もお断りしましたよね!」と達也が怒気を含めて言っても泉は意に介していない。 「お見合いとか関係ないんです。私がお会いしたいから来たんです」 泉は背が小さい。150あるかないか。豆狸みたいだ。相変わらず、20代の女の子のような格好をしている。 「あなた、会社は?今日は平日ですよ。働いてないんですか?」 「お休みしました」としれっとしている。相手にするだけ時間の無駄だと思い、転けたままのさちに声をかけた。 「太田さん。大丈夫ですか?」 「救急車呼んでください。私……多分、お腹に赤ちゃんがいます」 「え、え〜っ!」と叫ぶと達也は慌てて救急車を呼んだ。 救急車が到着すると、さちの搬送先の病院を聞いて達也もタクシーで後を追いかけた。
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