5、はじめてのデート?

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5、はじめてのデート?

メモには、さちからのお礼と申し入れが書かれていた。 「僭越ながら、先日のお礼をしたいです。一緒に晩御飯を食べませんか?高いところは無理です。居酒屋なんか如何でしょうか?」その文の後にLINEのIDが書いてあった。  達也は、あのイケメンにも教えなかったラインのIDを、さちの方から自分に教えてきたので、思わず頬をつねった。  さちは、剛史への長い初恋で沢山の教訓を得た。立っているだけではダメたというのも、その一つだった。 所長にドキリとした自分の気持ちを真っ直ぐに見つめようと決心していた。自分にも沢山コンプレックスがある。可愛くない背の高さと詐欺のようなメイクで隠してある『お雛様顔』だ。  所長は大人で仕事もできる。何よりも自分を過信している大人じゃない。他人(ひと)の痛みにも寄り添える人だ。日々の相談者に当たる姿勢でそれは見てきている。  好きなのかどうかは分からない。本当に好きだというのが分かるのはもう少し先な気持ちがする。  さちの心は、夢だけ見ている子供時代から抜け出そうとしていた。  小学生の時から剛史が好きだった。それは、剛史の顔と頭の良さと背が高くてスポーツができるからだった。 剛史が、どんな人間で、どんな心を持っていて何を考えているのか、興味もなかった。自分のことをどう思っているかだけが気になった。  さちは、今まで誰とも付き合ったことがない。 詐欺メイクの顔を『美人』と言って近づいてくる男は沢山いた。剛史のことが好きなままで、子供の心を抱えて、誰とも付き合えなかった。剛史のことは好き。でも、その気持ちはアルバムの写真のようになっている。さちは、今も未だ自分は傘の下から出られていないと思っていた。
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