1、イタい片思い

2/5
前へ
/53ページ
次へ
「達ちゃん、今日もお疲れ様」 達也の母、菊江は毎日息子の帰りを玄関で迎える。 家は渋谷区松濤にある。達也の家は亡き父のお陰で、それなりの資産を持っている。 母親は一人息子である達也を溺愛している。父が亡くなってから、その度合いは益々大きくなっている。 「達ちゃん、ご飯の前にこれを見て」と言った母が手に持ったものを見て達也はうんざりした。 「もう、お見合いはいいよ。こっちが申し入れてもお相手側から断ってくる。その繰り返しでしょ」 「今度は、大丈夫かもよ。見るだけでも見てみなさい」 母から押し付けられたお見合い写真を開く。達也は、それをじっと見た。盛ってあるにも関わらず「太田さん」より見栄えがしない…… 達也の如何にも気に入らないという表情を見て菊江は取りなした。 「人間はね、見た目じゃないのよ。それは達ちゃんも分かっているでしょう。会ってみたら気立のいいお嬢さんかもしれないし…」 「その言葉は、丸々自分の事を言われているみたいだよ。会えるならお会いしたい。いつも同じやり取りをお母さんとしているね。それから、いい加減に『達ちゃん』はやめてくれる?」 母は達也が返したお見合い写真を受け取ると不思議そうな顔をした。 「達ちゃんを達ちゃんと呼んでどこが悪いの?」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加