9、壁ドン

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9、壁ドン

 その日は、そのままタクシーで達也を家まで送って、さちは電車で帰った。 所長の家は、高級住宅街の邸宅とも言える立派な家だった。おぼっちゃまなんだと、さちは少し引いた。所長に肩を貸してお母様にご挨拶をした。 「私は事務所の部下です。太田と申します。所長には何時もお世話になっております。所長が出先で体調を崩されてしまって、私がお送りしました」 それだけ言って玄関先でお暇した。  蒲田駅で降りて徒歩圏内の自宅に帰った。丁度家の手前まで来た時、最近は土日になるとさちの家にくる剛史が家から出てきたところに出くわした。 「西田君、毎週毎週なんでウチに来るの?」 「太田の母ちゃんが俺のこと息子のように可愛がってくれるから」剛史はふざけていた。 「よかったね。ママが2人いて」そのまま、さちが家に入ろうとすると剛史が、さちの行手を腕で遮った。所謂、壁ドンだ。 さちは呆れ果てた。「バカじゃないの?何やってんの?」 剛史は、さちを壁に押し付けて首を傾げて「多分キメ顔」をした。「な?俺と付き合おうよ」 背が小さくて手足が短い女の子なら、逃げられないと思うだろうが残念ながら、さちは大女なのだ。剛史の手を肘で払い、足で急所を蹴ろうとした。 「テメェ!それは卑怯だろ!」と言って剛史は、秒で離れた。
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