9、壁ドン

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 剛史とは、ほんの5分話しただけで剛史は自分の家に帰って行った。これで、もう家には来ないだろうと、さちは思った。 さちが家に入ると、母が驚いて声をかけてきた。 「今日は、遅くなるんじゃなかったの?」 「その筈だったんだけど、友達の具合が悪くなっちゃって解散。そういう事で晩御飯はウチでいただきます」 それだけ言うとさちは自分の部屋に入った。さちの家庭は中小企業に勤めるサラリーマンの父、パートをしている母。至って庶民だ。  さちは所長の家を見てしまった。 違いすぎる……と少し憂鬱になった。  もしも、剛史が相手だったら、向こうの家庭環境はさちの家と同じだ。母親同士も仲がいい。だからと言って、もう一度剛史を好きになるのは難しいと思った。好きという気持ちが無くなって仕舞えば、剛史の悪いところもハッキリ見える。すごく子供で自分勝手。  夜になっても、さちは所長にラインしなかった。所長からもなかった。  その後、所長は一月ほど休みを取った。時々、ラインで様子は知らせてくれた。結局、少し入院することになって、その後は自宅で療養している。お医者さんに大分叱られたと冗談めかしていた。事務所の仕事の穴埋めは、所長のお父さんがトップだった頃、補佐をしていたベテランの古参労務士がした。さちは、お見舞いに行きたかったが、それを言えずにいた。  剛史は何事もなかったように、土日になると家にやってきて、主にお父さんとベイスターズの話で盛り上がりビールを飲んでいた。  
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