10、別人

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10、別人

 その朝、さちはワクワクしていた。所長から今日、復帰すると知らさせれていたからだ。 達也もさちに久しぶりに会えると楽しみにしていた。朝礼で達也は、所員全員に向かって挨拶をした。過労で倒れて休養が必要だったこと。ついでに全身隈無く健康診断をしてきたことを報告した。最後に、これからは健康管理に気をつけるので、また宜しくと言った。  ひと月ぶりに曽我部達也を見た所員全員が驚いていた。スッキリと痩せて細面になり、メガネをかけていた。スーツも作り直したのだろう。何だか全体的にオシャレになっていた。  若い女子事務員が小さな声で「所長って幾つだっけ?」とコソコソ話していた。さちは、何だか面白くなかった。面白くなかったので、ニコリともしないで黙々と仕事に没頭した。所長の側に近寄りもしなかった。相談は仮所長を努めていたNo.2のベテラン労務士にした。 午後からは、いくつかの案件を抱えて年金事務所に行き、そのまま直帰した。  さちは社労士としては、まだまだ駆け出しで個別の年金関係の仕事しか任せてもらえない。新規立ち上げの会社の就業規則作成などは、まだアシスタントだ。司法書士の資格も取ろうと思っていた。直帰できる日は直帰して勉強に時間を当てていた。 いつからだろうか、養われる可愛い奥さんの自分が想像できなくなったのは。 『ちっちゃ可愛い』女で無くなった頃からかもしれない。 今の曽我部事務所で修行を積んで、いつかは独立するか共同経営の事務所を立ち上げようと思っていた。
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