10、別人

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 達也は、さちの態度が固いのに直ぐ気がついた。自分と目も合わせようとしない。 事務の若い女の子たちが、大した事でもないのに「ご相談したいんです」と言ってくるのも鬱陶しかった。 「そんなこと自分の判断でできる事でしょう」と言いたくても、事務員さんたちに嫌われると仕事がやりにくくなる。古参で実質の事務のリーダー阿部さんに向かって、そっと手招きをした。 「何か御用でしょうか?」と阿部は真面目な顔をして達也に尋ねた。 「何だか、今日は変だと思わない?何時も勝手に仕事してる事務員さんたちが、いちいち私に了承を求めてくるんだよ」 「そうですか。少し浮ついているんですね。わかりました。私が〆ておきます。でも、その理由は所長が男に見えるようになったからなんですよ。所長は、そう言う所が疎い。きっちりと厳しく当たらないと変な誤解を招きますから気をつけてくださいね」 「何だよ。私は昔から男だよ。言ってる意味が全然分からない」 阿部は、ため息をつくと達也の前から姿を消した。  達也は、夜9時になると、さちにラインをした。 『今日は、態度が変だった気がするんだが、どうしたの?』 『別に……忙しかっただけです。すみません。私、司法書士の試験受けるんで忙しいんです』 『司法書士の資格も取るの?』 『はい。独立が夢なんで……遊んでられません。申し訳ありませんが、国家試験が終わるまで放っておいてくれませんか』 『それは、夏までラインもするなって事?』 『そうです』
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