1、イタい片思い

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 達也は自分の部屋に入ると、背広を脱いで姿見に自分の姿を写した。 お腹がぽっこり出ている。若い時は食いたいだけ食っても太らなかった。 中年太りという奴だな……。 運動は、子供の頃から余り得意ではない。 達也は先ほどのお見合い写真のことを考えた。 きっと自分の盛った写真も母さんがあちこちのツテで拡散しているんだろうなと気がついた。 今まで、お見合いすら成立した事がない。だからと言って、マッチングアプリには手を出したくなかった。40過ぎたら、結婚相談所に入会させられる。母の菊江は「身元がしっかりしたお嬢さん」に拘っている。そもそも、達也が相手を見つけてくるなど想像もしていない。  結婚しなくて何が悪い。結婚してもしなくても自由だ。  人生の価値観は人間(ひと)それぞれた。 そうして、達也は明日のライブの支度を始めた。達也は地下アイドル、椿みなみの推しだった。みなみは18歳の可愛い女の子だ。一年ほど前から休日には、みなみのライブやイベント、握手会に行っている。アイドルの推し歴は10年以上だ。 アイドルを応援するその場には、自分と似たような「イケてないおじさん」がいっぱいいる。自分だけが「特殊」だと感じない。そして、芸能活動しているアイドル達は、たとえ営業だとしても達也たちのような男にも普通に接してくれる。
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