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母の言った「思い込み」という言葉が達也には気になった。
毎日、事務所で顔を合わせているのに、太田さんは僕の方を見ない。昼休みも弁当組にも加わらない。席で勉強ばかりしている。真剣な表情もとても綺麗だ。彼女が言う「お雛様顔」は綺麗なんだ。
達也はデスクから立ち上がると、さちの方に行った。どうしても、確かめておきたかった。事務所に残っている他の事務員の視線も頭から消えていた。
さちも達也の気配に気がついていたはずだ。それでも勉強を続けている。達也は、無視を続けるさちに声をかけた。
「さち。僕と君は付き合っているんだよね?」
さちは微動だにしない。でも、下を向いた先の手元に涙がぽたっと落ちた。それを見た達也は、さちの手を引いて事務所の外に出た。
2人が事務所から居なくなると、他の女子事務員が騒ぎ出した。
「え〜!嘘。いつの間にあの2人。え〜っ!一体いくつ離れてるの?」
「みんな人間観察が甘い。所長は、太田さんが来た日から片思いよ。太田さんは、背の小さいぽっちゃりしたオジサンが好きになっちゃった。私はわかっていました!だから、今更、所長の見栄えが少し良くなったからと言って横槍を入れないようにね」
阿部は、ドヤ顔で言った。
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