11、お見合い写真

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 さちと達也は廊下に出た。 達也はさちの態度の全部が分からなかった。だから、両手を握った。 「僕たちの背丈は同じ。前を向けば正面が見えるんでしょう?顔を上げてよ」 さちは、ゆっくりと顔を上げた。切長の大きい目から涙が溢れていた。 「所長さんと私の住む世界は違う。お家に送って行った時そう思った。所長さんには幾らでも『ちっちゃ可愛い』女の子がいるでしょ。振られたら立ち直れないから、少しずつお別れしようと思った……司法書士の資格を取るからっていえば、距離を取る良い言い訳になる」 達也は、この時初めて15歳という年齢の開きを自覚した。達也が思っていたより、さちはずっと子供だった。 「そっか、心配になっちゃったんだね。心配しなくていいよ。私は、さちと初めて会った時からずっと、さちが好きなんだよ。片思いをしていたんだ。私は女性に縁がない人生を送ってきた。こうやって、正面を向いて話したのも君が初めてなんだよ。ちっちゃ可愛い人が現れても関係ない。さちが好きなんだから」 「本当に…?私みたいな下町育ちでも?」 「今時、そんなこと気にするの?司法書士は嘘なの?」 「それは本当。去年も受けて落ちたから今年も受ける」 「息抜きにラインしてよ。君のことは母にも話した。試験が終わったら会わせるよ」達也は自然に、さちを抱き寄せた。
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